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とある中小企業の会議室は地獄の様相を呈していた。
地獄である。
ならば裁定者が居て、判決を待つ罪人が居る。
閻魔の配役を受けたと自負する笹山翔が並んだ二人を睥睨した。
相手に伝わるように嘆息し、笹山は声を投げる。
「この部署は円滑な社内システムの運用が業務だ。そのシステムが停止して一日。経理や営業は緊急的に対応を取ってくれているが、会社は何のために君たちに給料を払っている?」
罪の所在を笹山が告知した。
俯いた部下達は何も反応しない。
「黙っていられても困るのだが。サーバーは動き調査を行えたと報告を受けたが、なぜシステムが動いていない」
言ってやれば、ようやく片方が反応した。隣でその動きに気づいたもう一方が手を引いて止めているが無視している。
「サーバーがカーネルパニックを起こして停止しています。支障があって正常に動作できない場合にOSを止める仕組みです。原因を取り除けておらずすぐ止まりますし、無理に動かすと更に状態が悪化する危険もあります。今回の原因はハードウェアなので、修理か代替サーバーを用意して解消しなければ使えません」
「それを何とかするのが君たちの仕事だろう。他部署に今現在迷惑をかけている理由にならないが」
伝えてやれば、呆けた顔で部下が言葉を呑んだ。自分の不徳を理解した、ということだ。
その隣でもう一人が不満げな顔で怒鳴り散らす。
「代えが無いんだよ! バックアップサーバーも、UPSだって無駄だとか言って予算を通さなかったのはあんただろうが!」
「それが? 有れば今対処できたというならば、その必要性を誤解なく私に伝え予算を通すのが君たちの仕事だろう。怠慢の責を擦り付けるのはやめてもらえるか」
そもそも、と瞑目して今日何度目かの嘆息を笹山漏らす。
「君たちが問題のある運用をしたせいで壊れたのではないのか。まったく使え--」
床を蹴る足音に気づいて笹山は言葉を切った。
目を開いた次の瞬間、迫ってくる拳を目にする。
咄嗟に左手を引き上げて体の前で庇おうとし、だが手の動きは引き攣ったように途中で止まってしまう。
笹山の左手は相手の拳を阻めず、その鼻柱が拳を受け止める。
不器用ながらも全体重の乗った拳が振り抜かれ、笹山は派手に転がされた。
それで終わりにはならない。
馬乗りになった相手が拳を幾度も笹山の顔面に振り下ろした。
「止まって! 勇実君! 自傷はまずいよ!」
痛みの近くに忙しい知覚の中で、自らの拳を痛める勢いで殴り続ける同僚を止める部下の声を笹山は聞いた。
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