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会議室での暴行事件は即座に知れ渡ることになり、傷害罪ではなく自傷罪によって田村勇実は逮捕された。
「情状酌量? 馬鹿げている」
笹山は意識を無くす事態だったため、入院して経過観察を受けている。
個室が用意され面会も厳しく制限された状態だったが、警察官との面会が数度あった。
当然、部下がキレて暴れ出したという正しい説明を警察官に聞かせることになった。
それに対する警察官の方は酷く苛立たしいものだった。
「自傷が重い罪である以上、その過程は注視されます。その要因は保護対象と見なされないような社会ですから、笹山さんも今後お気をつけて」
親切顔で宣った警察官。
その顔を思い出すだけで苛立ちが余計に心をざわつかせる。
頭を振って嫌な思考を頭から追い出す。
眼前の質素な病院食が視界の中で揺れた。
ぽろりと、左手に持っていたスプーンを落とす。
「クソ! またか!」
苛立ちは別のところから、笹山の神経を逆撫でする。
田村勇実の拳を止めることが出来なかった左手。時折に痛みを訴える殴られた頭も気に入らないが、今はこちらの方が笹山は気に入らない。
病院で目覚めてから左手に違和感が募る。笹山の左手は明らかに思うように動かないことが増えた。
「笹山さん、お食事済みましたか?」
看護師が部屋に入ってきて、スプーンが床に転がっている事実に気づく。
「ああ、落としちゃいましたか。代えのスプーン持ってきますね」
「いらん。食事はもういい」
「そうですか? では、下げちゃいますね。何かあれば気兼ねなく呼んでください」
「……なら、外出をしたいのだが」
「それはできません。笹山さんは経過観察中です。先生の許可が下りるまでは部屋で安静にしていてください」
「それはいつまでだ」
「先生の許可が下りるまで、です。次回の診察で先生に直接確認してくださいね」
聞き分けの無い相手を諭すような物言いをして、看護師が病室を後にした。
「許可が下りるまで、か。それはいつだ」
疲れたように零して、笹山はベッドに横になった。
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