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突如として笹山を襲ったのは左手から来る激痛だった。
声にならない絶叫を上げて、転げまわる。
その声を遮ったのは、笹山の腹に刺さった何かだった。呼吸が詰まり、声を上げる余裕すらも奪う。
「うるせえんだよ」
痛みから酸素へ優先順位が切り替わった笹山が、震える喉で空気を求めつつ見上げる先には男が三人。一対二で向き合っている。
男が足を上げる様から、つま先で蹴り込まれたのだとわかる。
そこは瓦礫が散らばった、崩れた建物のような場所だった。
「見ろ、てめえらのせいでこのザマだ。管理はきっちりやれって言っただろうが。何のために管理に人員割いてると思ってやがる」
苛立ちを隠しもしない怒声が叩きつけられる。
「こいつらをあっちに繋いでんのは、幸せな夢見てる間は人間として扱う必要がねえからだ。なのに、負傷だの痛みだのって非常事態が片方で起こると齟齬を処理できなくて頭がパニックを起こす前に安全装置が働きやがる。この場合、当然現実じゃねえあっち側を止める」
わかるよな、という批難の声が飛ぶ。
「あっちの問題なら言い訳も立つ。現実の体に問題がねえから世話がねえ。だが、こいつは左手がこのザマだ。酷使はしてもかまわねえから、メンテをちゃんとしろってのはそういうことだ」
「ですが、腕を切り落としても--」
「馬鹿か! 腕を切り落とすんじゃ手遅れだ。壊死が始まる前に兆候に気づいて手当すんのがお前たちの仕事だって言ってんだよ」
怒声に別の声が反論を返す。
「そのための医療キットも、手当のための時間も省いたのはアンタじゃないか!」
「壊死を予期して説明しなかったお前らの落ち度だろうが。その時点なら、ゴミを抱える前に後送だって出来たってのに」
見ろ、と男が笹山を指さした。
「こうなっちまったら使い物になんねえ。あっちとの繋がりが切れた時点でこっちで保護しなきゃなんねえから廃棄もできねえ。この状態じゃ後送しても面倒しか起きねえぞ」
「そこまで分かってるなら俺らをドヤしたところで、何も解決しない! わかるよな!」
反論の声と共に大きなシャベルが放り投げられて、三人の手に一人一本ずつ渡る。
「幸い現場には、俺らだけだ! アンタも腹くくれ! ここで片付けるんだよ!」
六つの瞳孔が笹山を覗き込んだ。
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