悪夢

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「──はっ!」 ガタッと体を揺らして俺は目を覚ました。 そこは行きつけの喫茶店だった。 (あ、何だ夢か) どうやらうっかり居眠りをしていたらしい。 慌てて周囲を見回すが、他の客たちは事も無げに過ごしていた。 自分が悲鳴を上げてはいなかったことを知って、ホッと安堵する。 (あれは去年のことだったか。社運と俺の人生がかかった大きな商談だった) 尤も、夢の中とは違って実際の俺は遅刻なんかしてなかったのだが。 あの商談だって見事に成功させて、大いに出世したのだ。 (それなのにあんな夢を見るなんて) 日頃の仕事の疲れでも溜まっていたのだろうか。 そんなことを考えていると、目の前に見慣れた女性が現れた。 「ねえ」 それは付き合って5年になる彼女・サクラだった。 (ああ、そうだ。今日は彼女に別れを告げる為にここに来たんだ) 会社での実績を高く評価された俺は、専務の娘との縁談を勧められた。 これが成功すれば社内でのポジションはおろか、人生が安泰だ。 学生の時も社会人になってからも常にトップを走り続けてきた俺の努力が、ついに実を結ぶのだ。 この縁談を断る理由など、俺には無かった。 だから、サクラには別れを告げなければならない。 年齢的にお互いに結婚を意識していたこともあり、ここで彼女を振るのは酷なことだとは思う。 だが、仕方ないことなのだ。 専務の娘と結婚すれば、俺は人生の成功者になれるのだから。 その方が母さんも喜んでくれる。 だから、仕方ないんだ。 「話って何?」 「ごめん。申し訳ないんだけど、俺と別れてほしいんだ」 「え? 何で? 意味が分からないんだけど」 「本当に申し訳ない」 「冗談じゃないわよ! この間だって結婚の話をしてたじゃない!  親にも挨拶したじゃない! 今更別れるなんて有り得ないわよ!」 「ごめん」 「ちょっと待ってよ!」 彼女に頭を下げて俺は店を出た。 サクラが必死に縋りついてくる。 「私と別れて専務の娘と結婚するなんて認めない!  私を捨てて自分だけ幸せになろうったってそうはいかないんだから!」 「頼む、もう勘弁してくれ」 「死んでやる! 死んで一生あんたに取り憑いてやる!」 「え……」 泣きながら叫んだかと思うと、サクラは車道に飛び出していった。 そこに走り込んでくるトラック。 次の瞬間、俺の目の前で彼女は赤黒い肉の塊になった。
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