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「あ」と思った時、俺は目を覚ました。
心臓はバクバクと激しく鳴っていたが、頭の中はどこか冷静だった。
(ああ、やっぱり。今のも夢だ)
俺はサクラとのお別れを済ませた後、専務の娘と付き合い婚約にまで漕ぎ着けた。それが現実だ。
(今更あいつの夢を見るなんて)
やれやれとため息をつく。
その時になってようやく気付いた。
自分の体が小さく幼くなっていたことに。
だが、俺は慌てたりはしなかった。
(これも夢だな。今度は幼い頃の夢か)
懐かしい実家の風景を楽しむ。
ふと見ると、隣には妹が眠っていた。
「…………」
3歳ぐらいだったか。
俺は妹のことが嫌いだった。
母のお腹の中にいる頃からずっと大嫌いだった。
俺はずっと母の一番だったはずなのに、妹が出来てからはそうではなくなったからだ。
母の一番である為に、勉強もスポーツも頑張っていつもトップを取っていたのに、何もしてない妹の方が構われていた。
俺には厳しかった父も妹にはやたら甘かった。
こいつさえ居なければ……と何度思ったか分からない。
久しぶりに妹の姿を見た事で、長い間忘れていた憎しみが甦る。
俺は眠る妹の体を抱き上げた。
突然のことに目を覚ました妹はキョトンとしている。
そのまま俺は妹を風呂場に運んで、水の張った浴槽の中に落とした。
暴れる妹の頭を力いっぱいに押さえつける。
やがて……妹は動かなくなった。
「…………」
まず最初に感じたのはスッキリした感覚だった。
それからだんだんと恐怖心が込み上げてきた。
『大変なことをしてしまった』
『母さんにバレたらどうしよう』
そんな思いから心臓がバクバクと痛いぐらいに激しい音を立てる。
だが、俺は恐怖心に飲み込まれることはなかった。
そう、これは夢だ。
現実では妹は勝手に浴槽に落ちて死んだのだ。いわば事故だ。
だから俺が恐怖心に駆られる必要なんか無いんだ。
さあ、こんな夢からはさっさと覚めてしまおう。
目を閉じて手をぎゅっと握り締める。
そうやって体に力を入れればたちまち目が覚めるのだ。
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