悪夢

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「……ああ、やっぱりそうだ」 目を覚ました俺は口元に笑みを浮かべた。 全ては夢だったのだ。 (こうも酷い夢を連続で見るなんて、相当疲れてるのかな) そう思って体を起こす。 その時、気付いた。 自分が目を覚ました場所は自宅のベッドではなかった。 そこは、見たこともない大きな川の中だった。 一瞬、訳がわからなくなるが、すぐに冷静さを取り戻す。 「何だ、まだ夢の続きか。本当、いい加減にしてくれよ」 バカバカしいと笑いながら、もう一度目を閉じて体に力を入れる。 その時、背後から肩を叩かれた。 「なあ」 「え? スズキ?」 更に別の方向から肩を叩かれる。 「おい」 「え? サトウ?」 今度は胸倉を掴まれる。 「ねえ」 「サ、サクラ?」 見知った顔が俺を取り囲んでいる。 皆、恨めしい顔でこちらを睨んでいた。 「なあ、何であんなことしたんだ?」 「おい、お前だよな。俺を突き落としたのは」 「ねえ、突き飛ばすなんて酷いじゃない」 スズキが、サトウが、サクラが、俺を責め立てる。 「なあ、お前。俺が万引きしてるとか根も葉もない噂を流したよな?  それが元で自殺するまでに追い詰められたんだぞ。  そのお陰でお前は俺に代わって学年トップになれたんだよな?」 「ち、違う。俺は友達とちょっとふざけてただけで、噂を広めたのは他の奴らだ」 「おい、お前。駅の階段から俺を突き落としたよな?  それで死んだ俺に代わって商談を成功させて、見事に出世したわけだ。  俺が取り付けた案件だったのにな」 「知らない。俺は何も知らない!」 「ねえ、私は本気で死ぬつもりじゃなかったのよ。  あの時、あなたが強い力で突き飛ばすから……」 「やめろ! 俺は悪くない! 俺は悪くないんだ!!」 俺が叫ぶと浸かっている川の水が嵩を増した。流れも早まる。 川から出られないように、3人の手が俺を水の中に押さえつける。 「くそ! こんな夢、さっさと覚めてしまえば良いんだ!」 目を閉じて、体に入れる。 これでこの悪夢ともおさらばだ。 だが…… 「な、何で⁉︎」 いくら体に力を入れようとも夢から覚めろと念じても、一向に事態が変わらない。 こんなことは初めてだった。 「さっさと覚めろよ! どうせベッドの上で寝てるんだろ?」 焦りからその場でジタバタともがく。 バシャバシャと水を弾く音がやけにリアルに耳に響いた。 「覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ……!!」 いつまでも覚めない悪夢の中で俺は半ばパニックに陥ろうとしていた。 その時、目の前の水面から小さな手が這い出てきた。 「お兄ちゃん」 3歳の時に死んだ妹が、その姿のまま現れた。 そして妹は信じられない強い力で俺の頭を押さえつける。 冷たい水の中で俺はパニックになりながらもがいた。 (これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢……) やがて意識が遠のいてゆく。 ああ、これでやっと目を覚ますことが出来るんだと思った。 輝かしい希望に満ちた、俺の現実に戻るんだ。 早く。 早く。 目を覚まさせてくれ……!
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