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2:雨歌う少女
徒歩十分で最寄り駅という立地はなかなか良い。
生々しい言い方をすれば父の給料が高いのだろう。
インフラ系に勤めており、電気と水道の供給、管理をしている。
少し前まではガスもインフラに含まれていたが、温室効果ガスである二酸化炭素の排出を理由に廃止になった。
他にも何か重要な仕事をしていた気がするが、父は普段僕の学校での話を聞きたがるくせに自分の仕事を話そうとしない。
苦労を息子に見せたくないのか?
実際のところは分からないが。
「雨、面倒だな」
傘を閉じて改札を抜ける。
電車に乗って。
早い時間でも働く人たちがいてぎゅうぎゅう詰めだ。
電車に三十分揺られる。
降りると高校の最寄り駅だ。
十分ほど歩く。
「ん?」
学校に向かっていると、公園の木製ベンチに座って傘を差して歌っている少女がいた。
幸せそうに、舌足らずで、聞く者を止めてしまう甘美な声だ。
ただ弱々しい声は時折雨音にかき消される。
「制服、僕と同じ。……って」
傘から出た背中が濡れてしまっている。
夏用の制服なのか紺色が透けてシャツが見えている。
風邪ひくぞ。
「あの」
「君と生きて進んだ 証が♪ 僕の背中を 押しだしている♪」
うん、気づいてない。
……待て。
少女は傘を少し上げる。
震えていた。
でも続けて歌っていた。
「ごめんなさいっ」
「あ、いえ。朝早く公園で歌っているの怖いですよねえ」
その小柄な少女の肌は白かった。
ややつり目な瞳はぱっちり二重だ。
金髪のなかに白髪が混ざっていて、綺麗な人形のようだった。
なお、歌を聞かれたのが余程恥ずかしいのか、唇を震わせて目に涙を溜めながら何も言わずに見てくる。顔全体が赤くなっていた。
「いえ、そういうわけじゃ」
「って、私と同じ高校。どうしましょう、恥ずかしいところ見られてしまった。その、どうしたらいいと思いますかッ!」
少女は立ち上がって迫ってくる。
聞かないでくれ、と思うものの。
僕は放っておけないと思ってしまうのだった。
「その前に濡れてるから」
「あ、ほえ。本当、どうりで冷たいって。歌に夢中で。どうしましょう、ハンカチしかないです。寒いよお」
嘆く彼女に僕はタオルを渡した。
どうしてこういうときに限って新品下ろしたてのふわふわ真っ白タオルがあるのだろう。
「ありがとです。洗って返しますね!」
それが隣のクラスの少女、シラユキさんとの出会いだった。
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