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9:憂い
父の帰りが早くなった。
今日もシラユキさんと出掛けてから家に帰る。
夕食の時間だ。
既に父がいた。
「ミチル。父さんの仕事ようやく落ち着いてきた。七月の上旬には雨が止まる」
「良かったわ。私も疲れたから」
それはつまり雨が終わることを表している。雨がやんだらシラユキさんはどうなる?
「ミチル?」
「食欲ないかも」
「間食か?」
「そんな感じ」
「ならこの大物は父さんがもらうぞ!」
唐揚げが取られた。
母は大人げないと父を叱りつつ嬉しそうだ。
気分が良くて当然だ。
もうすぐ雨が上がる。
望んでいた晴れが来る。
そしたら、シラユキさんはどうなる?
また火傷の恐怖に怯えながら一人で生きていくのか?
天気制御装置がなければもっと雨の日は多かったはずだ。
装置がなければもっと雨を受け入れていたはずだ。
罰あたりだ、みんな。
「ミチル?」
「父さん。もう晴れる?」
「ああ」
「雨なんて、晴れなんて勝手に決めていいものじゃなかった。でも晴れを期待させて、でも裏には雨を期待する人がいて、そんな悪魔の装置直さないでよっ!」
父は箸で摘まんでいた唐揚げを味噌汁の中に落とした。
「あちゃー、味噌汁染み染み唐揚げだ。雨が好き?」
「たぶん」
「ミチル、それでいい」
「父さんの問題じゃないって分かってる。怒ってごめん」
「そっか。もっと雨を増やしてもいいよな」
「うん」
「装置は七月四日に直る予定だ。偉い人が急いだりしなければ」
父は僕の頭をわしゃわしゃと撫でた。母は台所から大皿を持ってきて菜箸で一つずつ僕と父に唐揚げを乗せた。
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