第七話

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第七話

 放課後、点字関連の書籍を借りるため浬は図書館へ向かい、数冊選んで家へ持ち帰った。  夕飯も食べずに初心者向けと書かれたものから読み始める。  点字は縦三点、横二点の計六点の組み合わせで一文字になる。ローマ字を意識して作られ、母音を表す「あ行」を基本形としており、法則性がある。 といっても素人目には同じに見えるし形も複雑だ。  けれど浬はやる気が漲っていた。  瞬いていた光は一つ一つに意味があり、点と点で文字をつくる。まるで星座のようにそれぞれに物語があるのだ。  浬は記憶を失ったと知ってからというもの、やりたいこともなく生きている。そんな浬に行く先を示すような点字が現れた。  空腹を訴える腹を無視し、日付が変わっても点字の勉強に励んでいた。  火曜の一コマ目は学部必修の講義があるが、福祉科の羽場の姿がない。  遅刻しているのだろうかと思ったが、チャイムが鳴っても姿は見えず、次の講義にも来ていない様子でとうとう羽場の姿を見ないで放課後を迎えた。  関わらずに済んだと安心する気持ちと入学してから一度も顔を合わせないのは初めてなので心配の気持ちもあった。  浬は逡巡したがやはり気になってサークル棟へ向かう途中で西藤に会った。  「羽場くん見ませんでしたか?」  「熱出したからサークル休むって連絡きたよ」  「具合悪いんですか?」  「昨日の晩からだって」  西藤が心配気に眉を寄せているのを見て、浬も胸が痛んだ。  必修の講義ですら欠席率が高かったので流行っているのかもしれない。  「この時期になると新入生は体調を崩しやすくなるんだよ。よかったら様子を見に行って来てくれないか?」  「……はい」  できるだけ関わりたくないが具合いが悪いと知ってなにもしないのはなんか卑怯な気がする。それに西藤に頼まれた手前、行かなかったら冷たい男だとサークル内に噂を立てられるかもしれない。  あらゆる可能性を考えて仕方がないと自分を納得させ、浬は外へ飛び出した。
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