相合傘

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 突然雨が降ってきた。空は晴れているのに。にわか雨。 強風でもないのに急にコロコロと 目の前に傘が転がってきた。驚いて拾い上げる。 「すみません、私の・・・」 息が荒い焦って走ってきたのだろう。 「大丈夫ですか?」 開いた傘を渡した。 軽く頷くと 「一緒に」と言って傘を頭上に上げた。 「僕が持ちます。ありがとう急な雨で困っていた。もしかして同じゼミの吉岡さん」 彼女は少しほほを染め頷いた。 「私、相合傘してみたかったんです」 「そうなんだ、僕で良かったのかな」 彼女の家まで送る事にした。 「ここで」 そう言って傘を持たずに走り去った。 「傘・・・」 見上げると雨がやんでいた。 返さなければと思い表札を捜した。 喪中の表札、吉岡だった。 チョット不思議な気がしたが、チャイムを鳴らした。 「どちら様」 「僕、田川道武と言います。こちら吉岡絵里さんのお宅でしょうか」 「まあ、あなたが絵里を助けてくれた」 「どういう事でしょうか」 「この前の地震の時絵里をかばってくださったって聞いてます」 「どうぞ上がって下さい」 傘を渡しそびれ玄関に置いた。 部屋の真ん中の布団の中に白い布を被った絵里が横たわっていた。 「絵里、田川さんが来てくれたわよ。どうぞ見てあげて幸せそうな顔をしてるでしょう」 田川は無言のまま手を合わせた。 「あの、借りた傘を返しに来ました」 「形見と思って受け取って頂戴。それをこの子は望んでいるわ」 断る言葉が見つからずその場を後にした。 外に出るとまた雨が降ってきた。 「降ったり止んだりだな」 独り言を言ってると 「田川、入れてくれよ」 ゼミ仲間の清瀬が強引に傘に入ってきた。 「この傘、誰の?」 「吉岡の傘だ。形見分けに貰った」 「えー、亡くなったの、いつ?」 「今朝がたらしい、でも僕さっきまで吉岡と一緒にいたんだ」 「そうか、そういうことあるらしいよ。よっぽどお前が気に入ってたんだな」 「あの地震の時本棚が倒れそうになったのすぐ気づいたものな。下手したら怪我してたよ」 「郷土研究だろ、本が多いから気になっていたんだ。だから体がすぐに動いた、それだけのこと」 「でも、吉岡はそれがきっかけだったんだろうな。体を張って助けてくれたってね」 「茶化すなよ、僕は危ないと思ったら助けるよ」 「俺でもか?」 「当たり前だろ」 雨が止んだ。 「左肩けっこう濡れてるな、悪かったな。俺バイトあるからまた明日」 清瀬が手を振って走って行った。 傘を閉じようとしたらまた降ってきた。何なんだ今日は又傘を差した。 確かに一人なのに左肩が濡れている。まるで隣に誰かいるようだ。
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