出会い

2/2
前へ
/9ページ
次へ
 なんとなく決めていた。  私は、人類も地球も自分も、どうでもよかった。  こんな小娘に世界は背負えないよ!ってんだ。  こう見えても正義感も強いし真面目だし、祖母の言葉を守ってまともな恋もしていない。  だからこそ、私は私が苦しむ姿を想像できる。  頑張ると思う。  嫌いな奴とでも結婚もできる。  そんな自分が気色悪い。  どこまでも良い子でいたいんだ。  なぜ?  がっかりされることが何より心が痛いからだ。  感謝されると嬉しい。  これを、感謝の餓鬼と子供の頃から名付けていた。この餓鬼が魔物なんだ。  さすがに17才になればわかる。  私は私のために生きたい。  私のやりたいことをしたい。  誰かのためって、それを世間では犠牲って言うんだよ。  正義はヒーローじゃない。  犠牲になるあわれな人だ。  感謝の餓鬼に支配されたくないんだよ。    好きな人を見つけて、友達のように恋にドキドキしたり愛に苦しみたいんだ。  愛に全力になりたいんだ。  ずっと心にブレーキをかけてた。  そもそも女王の孫に手を出せる男子はいない。  女王の魔力なら一人の男を抹殺するのも空き缶をゴミ箱に捨てるくらい簡単なことだって誰もが噂している。  私は祖母を知ってるから絶対にしないことはわかっているけれど、祖母は大衆のまえでは魔法はほとんど使わない。だから噂だけが大きく膨らんでいってる。  それが大衆の常識になっている。  母からは、私の結婚相手にはいろいろな条件が沢山あって、かなり年上のオジサンになりそうって言う噂レベルの話は聞いていた。  お爺さんよりはマシでしょ?と言う母の言葉が冗談には聞こえなかった。  だから。  だから私は今日、死ぬ。  ここで、死ぬ。  今から、死ぬんだ。 《これで人類は滅亡か?!》  明日の新聞の見出しをちょっとだけ想像して笑った。  知らねぇーよ  死んだ後まで責任は負えねぇー。 「うぜぇー」  そもそもだけど、魔法が隔世遺伝で、しかも一人しか受け継げないなんて、その時点で途切れる運命だったんだよ。  誰かが断ち切る、宿命さ。  私はこっそり侵入した高校の校舎の屋上の淵に立った。  背伸びして深呼吸した。  ゆっくり右から左へ景色を眺めて見てみた。最後に記憶に残したいふるさとの懐かしい世界だった。  幾つもの山々がそびえ立ちいろんな緑の色をまとっていた。遠くには青い海が見えた。風が強いのか白波が目立ち、船も少しだけど浮かんでいた。空は今日は快晴だ。太陽の光は相変わらず眩しくて暖かい。真下には学校の校庭がある。  友だちが陸上や球技の練習をしていた。体育館からも歓声が聞こえて、この校舎の下からも吹奏楽だろうか?、音楽が聴こえる。  そうか、大会が近いからみんな早朝の訓練をしているんだ。  夢がある奴らはすごいな。  頑張っているな。    そんなことを思った。  そして、自分の番が回ってきたような気がした。  そうしたら、ふと、今朝の夢で見た薔薇の庭園を思い出した。  そうか、感動繋がりか。  あの薔薇も感動した。  綺麗だった。  もう一回、見たかったなぁ。  私は決心した。  深呼吸をして足場を確かめた。  思い切りジャンプして空中に飛び出そうと思った。  誰もが私も魔法が使えると思っていたけれど、私は魔法を使ったことがない。女王である祖母は、私の強力な魔法は平和の封印という零様の魔法で使えないように固く封印されていると教えてくれたことがあったが本当かどうかはわからない。  そう、だから飛び降りれば確実に私は死ぬのだ。  魔法なんて使えないから。 「さようなら」  そう言って瞼をかたく閉じた。  そして、  私は飛び降りた。  ・・・・・・・・  ・・・・・・・・  ・・・・・・・・  ????????  じゃ、  ないようだ。  あれ?  あれれれ?    私が飛び降りようとジャンプした直後に誰かが私を抱きしめていたんだ。  息が出来ないほどの強烈な力で抱きしめられいた。  宙に浮いたまま、後ろから抱きしめられたままだった。  そして私は急に現実に意識が帰ってきてしまった。 「恥ずかしい」 「恥ずかしい」 「恥ずかしい」 「だれ?」 「はなしてー!」  そしたら、少し低い声で、 「死んではダメです」  そう言われた。 「もしかして祖母に、女王に、私を監視するように言われていたの?」 「違います!」 「えっ?」 「今日から転校してきた者です」 「えっ?」  私は少しだけ理解して、 「とにかく男の人にこんなに抱きしめられるのは恥ずかしいので降ろしてもらえませんか?」  そう言った。 「すみません!」  男子生徒は慌てて私を屋上の上に降ろした。  太陽からの逆光で顔が見づらかったけれど、びっくりするくらいの端正で整った顔で、それなのに目は大きくて可愛い。髪は短髪だけど金色で顔がめちゃくちゃ小さいのに背がかなり高い。線は細いが腕も体も筋肉が凄そうな感じだった。  ああ、結婚でも死ぬんでも、その前にこんな男子と恋の1つくらいはしてからが、良かったかなぁ。  そんな愚痴が心に溢れて、思わず口からも漏れそうになって慌てて両手で口を押さえた。  ヤバかった。(汗)  自殺しようとした直後のこの私の恋心には驚きだった。  ハシタナイ。  恥ずかしい。  確かに。  そのあとのホームルームで担任からさっきの男子生徒が転校生で来たことが紹介された。  先生は特殊な事情で転校してきたと言っていたが、その内容もどこから来たのかも秘密だと言って教えてくれなかった。  この学校は皇族や政界の関係者も多く、政治的な任務のために転校してくる奴らもいる特殊な学校だから、いろいろ秘密を持ってる生徒は多い。しかし、学校は素性のわからない生徒は受け入れないこともわかっている。生徒を守るためだ。  彼のバックにはすごい人がいるんだろう。  名前は、花山(はなやま)カオル17才。  少し木訥(ぼくとつ)で生真面目で笑わないが、笑うと大きな目がめちゃ可愛い。  いい奴だとは思う。  そして、もう1つの新事実。  転校生がもう一人いた。  長髪のチリチリくせ毛の金髪で背は低く、ひ弱そうなイマドキ男子で優しさだけは半端ない感じ。明るく陽気で、音楽が好きみたいでいつもヘッドホンをしていた。  だけど、あとで分かるんだけど彼は音感過敏症という病気だから授業中もヘッドホンが認められていたようだった。  音崎(おとざき)震矢(しんや)17才。    彼もなぜ転校してきたのかは秘密だった。前は欧州と言う地域の小さな国に住んでいたらしいけれど、それ以上は教えてくれなかった。  でも、薔薇の栽培で有名な国だとクラス一の秀才くんが教えてくれた。それから訛りが、花山くんも音崎くんも似ていて、なんとなく知り合いのような気がしたけど、二人とも全否定していた。  彼もいっぱい秘密を持っているみたいだけど、たぶんバックにすごい人がいるんだと思う。  まぁ、この学校に入れたんだから危ない奴だとは思わないけど、明るい中に感じる殺気は何なんだろうって思う。  花山とは真逆のキャラだけど、憎めない愛らしさもあった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加