伝説の真実

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伝説の真実

「ただいま帰りました」  私は何食わぬ顔をして帰った。  同級生になった転校生が祖母に報告している可能性は高いが、わざわざ私が本のページを開ける必要はない。 「お帰りなさいませ」  執事の剣崎(けんざき)がいつものように対応してくれた。 「女王様からの伝言がございます」  やっぱり来たか、と思ったが、 「今晩は結婚式を密かに行う予定だが、その前に伝説の真実や結婚の理由についても話しておきたいので、準備を始める前に私の部屋まで来るようにとのことです」  そっちかぁーって、そうだ、そっちが大変だったんだ。  忘れちゃいないけど考えてなかったー。  だって、死んでる予定だったし、考えなくていいやと思ってたし。  くそ、やっぱり花山は許せねぇ。 「お嬢様、お言葉が少し下品でございます」 「え?、聞こえてたの?」 「さっきからペラペラ、喋ってらっしゃいます。内容は忘れました」  私はヤバいって思った。  でも剣崎は昔から優しいんだよな。もう80才は過ぎてるだろう。祖母と同級生だったらしいからな。  私は荷物を部屋に置いて、滅多に入らない女王の部屋に向かった。  祖母だけど甘えたこともほとんどない。怖い存在の人だった。  私たちに魔法もほとんど見せたことがない。傷とか病気のときに魔法で治してはくれる。  ただ、1度だけ、女王の部屋の扉が少しだけ開いていて、のぞいて見てしまったことがあるんだ。  自然災害で死にそうな人たちを魔法で遠くからこっそりと救っていた。  母に聞いたら、毎晩遅くまでああやって地球のあちこちで苦しむ人たちを救っているみたいだと言っていた。しかし、すべてを助けられるわけではない。選別もしないといけない。だから祖母はいつも悲しそうな顔をしているとも言っていた。  トントントン。 「入りなさい」 「はい」  重くて大きな扉を体を使ってゆっくりと開けてから私は中へ入った。  祖母は真ん中の大きな椅子に座ってこちらを見ていた。  いつもの王冠に白を基調としたドレス姿をしていた。 「こちらに来なさい」 「もっと、そばに」 「もっと」 「はい。おばあさま」  私は緊張していた。掌は汗でびしょびしょだ。 「朝の件だが、私は何も聞いていないわよ。気になっていただろうけど花山は黙っていた。だから少し罰を与えておいたわ」 「え?、どんな罰?」  私は身震いした。  祖母の魔力は想像よりも遥かに凄いのかもしれない。こわぁー。 「それより本題に入りたい」 「はい」 「私の体力がかなり落ちて、主治医によるとこのまま魔力を使い続けたら余命は3ヶ月と言われた」 「えっ」  私がぎょっと目を見開いたのを見て祖母は少し笑いながら、 「使い続ければの話だ。使わなければまだまだ長生きはできる。口うるさい婆さんは邪魔だろうけどね」 「いえいえ、そんな…」  そのあとの言葉が続かなかった。 「いいんだ、何も言わなくても」  そう言って、また笑った。  こんなにも笑う祖母は初めてだ。 「ごめんよ、ナナ」 「おまえには悪いと思ったが時間がなかった。今激しい攻撃があっても私は体力的に対応できない。国の、世界の危機なのだ。だから今夜中におまえの魔法の封印を解いておきたかったのだ」  祖母は少し泣いているようだった。涙を指で拭いていた。 「おばあさま、覚悟はしてました。今日の自殺の真似も、どこかでおばあさまが見ていて助けてくれると思っていたからできたことだと思います。甘えていたんです。今までの自分を捨てるために。覚悟を決めるために。そう言うことです」   そう言って私は唇を噛んだ。血が出るくらいに。 「おまえは強いな」  少しため息を吐いて、 「私より何倍も強い偉大な女王になってくれそうだ」  私は慌てて片手でチョコチョコと左右に小刻みに振って否定した。 「そんなことは…」  そう言い掛けた私の言葉を遮るように、 「フフ、それより重大な話なのだが、おまえも知ってる最も偉大な祖先である零様は強力な魔法を自身に掛けておられたんだ。強力な魔法同士が戦うと地球が消滅する。だから隔世遺伝で女子一人への遺伝とした。その女子を守るために、その女子が魔法を使えるのは、結婚して女の子を産んでからにしたんだ。それまでは魔力を封印して使えなくした。それが零様の平和の封印というものだ。ただし、緊急の場合は特別な魔法を使って、その能力を解放できる」 「特別な魔法?、解放?」 「結婚した夫と魂を入れ代える魔法さ。つまりおまえの体に夫の魂が入り込み魔法が使えるようになる。おまえは夫の体でその光景を傍観することしかできない。おまえの意思でいつでも元に戻ることはできる。但し、戦いで受けたダメージは魂と共に夫の体に戻る。だから魔法が使えた女王の夫はみんな短命だったんだ。みんなこの入れ代わる魔法を使っていたらしい。もちろん私もおまえのおじいさんと入れ代わっていた。そして、男は無理をする生き物らしい。特に好きな女の前ではね。そして、普通の人間には耐えられない体力を使い、傷も残り、それを治す魔法は元に戻った私には使えないからダメージは蓄積されて後遺症をもたらす。それでみんな早死にさ」  そう言って祖母は、悲しみというより怒りの表情をチラリと見せた。  なんとなく理解した。  私より、私と結婚する人が大変なんだとわかった。  それを了承した馬鹿がいるってことだ。私のために?、いや、世界のためにかな? 「おばあさま」 「なんだい?」 「私と今夜結婚する男はそれをすべて知っているんですよね?」 「そうだよ」 「相当な馬鹿か、権力が欲しい強欲か、若い私の体目当ての変態くそじじいしか思い浮かばないんですが、どんな人なんですか?」 「フフ、剣崎が言う口の悪いナナってこんな感じなのね。面白い」 「おばあさま!」 「はい、はい、心配よね。確かに候補はそれなりに高齢の人が多かったわ。それなりの身分が必要で、そうなると名家のご子息になるから親や親族が猛反対する。子供の死を親が嫌がるのは当たり前ですからね」 「で、どんな人なんです?」 「体力で言うと60代でもいけるかなぁ」 「えぇー!!!」 「まぁ、今晩のお楽しみ!」  私はまったく納得できなかったけど、渋々部屋から出て、婚礼の衣装に着替えるべく自分の部屋へ向かった。  いくらなんでも60は無いにしても上限をあげて40代でも私がホッとするように仕掛けたのかもしれない。  そう思うと不安になった。
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