戦闘、戦いのはじまり

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戦闘、戦いのはじまり

 私たち二人は宮殿の玄関を開けて、外に出た。  宮殿だけではない。  宮殿の回りの街や民家までもが爆撃で火の海になっていた。  なんて惨いことをしている。  私は物凄い怒りが沸き上がり、涙が勝手に大量に溢れていた。  祖母の話では数千発のミサイルが飛んでくるイメージがあるって言っていた。 「花山、頼むよ」 「わかりましたが、あのー、」 「なに?」 「もう、花山ではないです」 「え?」 「美園谷(みそのたに)カオルです」 「めんどくせーなー、じゃこれからはカオルでいいな!」 「はい」 「じゃカオル、交代するぞ!」 「はい」 「傍観のプリンセス、願います」  何の変化もない。と思ったけれど、閉じた瞼を開くと目のまえには私がいた。  確かに私はカオルの体にいた。  私が少しこちらを向いてニコって笑ったと思ったら、一気に上空、空高く飛んでいた。そして、こちらに振り向いたと思ったら何か魔法を掛けていた。  そうか、今の私にバリアの魔法を掛けてくれて守ってくれたようだ。  宮殿全体とか、1つの国を全部バリアするとかスケールの大きな魔法は無いのかといろいろ疑問は浮かび上がるが、今は任せるしかない。  それにしても私って空も飛べるようになるんだ。すごっ!  でも、そこで気づいた。  私はウェディングドレスのままじゃん。パンツは見えないけどスカートはめっちゃ捲れてる。  まぁ、これも、いっかぁ。  そんなことを思っていたら、今度は目で追えないスピードで私は空のあちこちに飛んでいってミサイルをつかまえては無力化して陸に下ろしていた。  それでわかったことは、まとめて一気に魔法を使えば簡単なようだけど無理みたいだ。  1個1個なんて、祖母には無理だ。たぶん数千発のミサイルだ。これはあきらかに祖母の体力を計算しての攻撃だ。汚ない奴らだ。  これを祖母は事前に予感して、私とカオルが対応できるようにしたくて今晩の結婚を考えたのだろう。  そして、敵もそれに気づいて攻撃を少し早めたのだ。  本当に危機一髪のところだったんだろう。危なかったんだ。  カオルは本当に猛烈なスピードで次から次にミサイルをつかまえていた。カオルが空を飛んでからは1発も爆発音を聞かなくなった。 「大丈夫かな?」  そう独り言を呟くと、 「大丈夫です、プリンセス」  カオルの声が聞こえた。 「入れ代わっている間は電話のように会話ができるようです。感覚が共有されてる?みたいです」 「そうなんだ」 「かなりミサイルも少なくなったようです。無駄な攻撃だと認識したんだと思います。これだけの攻撃だから向こうも体力的にかなりのダメージがあるはずですから」    カオルの言う通り急激にミサイルの数が減ってきた。  そのとき、私の耳に雑音のような声が聞こえてきた。  これは、私の体へなのか、カオルの体にいる私へなのか、どちらに届いた声かはわからなかったが、 「ナナ、遅れてゴメン。結婚を阻止して約束を守りたかったんだけどね、失敗しちゃった。でも、俺はあきらめないから、おまえをその場所から救いだしてあげるから、待っていて欲しい、今も好きだよ」  そんなふうに聞こえた。  たぶん、カオルも聞いていたはずだ。  そんな約束?なんて、誰と誰がしたんじゃって言いたいけれど、もしかしたら、あの薔薇の庭園の出来事かもしれない。だとしたら、あのときの男の子が敵にいるってことになるのかな?  なんとなく複雑な気分になった。  だって、この酷い惨状が、私のあの日の愚痴から始まったのだとすると私が原因ということになる。  後悔するには遅すぎる。 「プリンセスさん、聞こえますが?、今の話は忘れて下さい。たぶん陽動作戦です。あなたの心を揺さぶるのが狙いです。真に受けないで下さい」  カオルが私にそう言ってきた。 「わかった、ありがとう」 「じゃ俺、あともう一息、がんばります」 「はい」  私は1つ疑問に思った。  カオルが約束って何って聞かなかったことだ。なんか、すべてわかっているような気がした。  もしかしたら、相手が誰なのかもわかっているのかもしれない。  そんな気がした。  それからもカオルは1時間以上もがんばって働いてくれた。  そして、ミサイル処理が終わると、街の修復を始めた。  建物を完全に元の状態にするのではなくて、本当に修理、修復する魔法のようだった。  まだ混乱している最中だと魔法で死んだと思われていた人が生き返ることもあったようだ。要は完全に死んでなかったと言うことだろう。  しかし、どんなに瀕死の状態でも生きてさえいれば魔法で助かるかもしれないと言うのはものすごい希望ではあったようだ。  悲しみに沈んでいた街に、時々、歓喜の声が聞こえてきた。  街の景色はどんどん綺麗になっていった。  火の海だった火は消え、煙も消え、壊れた建物も修復され、いつのまにか夜は明けて、朝の陽射しがカオルの体にも届いてきた。  私の体を使ってカオルは、街の次は宮殿を修復し始めた。  その頃には地下から避難した宮殿のスタッフたちも外に出てきて無事を確かめて喜んでいた。  安堵からの歓声と笑い声があちこちから聞こえてきた。 「やっぱりプリンセスはすごい人だったんですね。魔法をしているところを見たことがなかったので疑っていました」  そんなことをカオルの肉体に語り掛けてきたのはいつも洗濯をしてくれているおばさんだ。史子(ふみこ)さんて名前の人だ。  私は照れたが少しうなずいた。  ある程度の修復も終わった頃、女王も宮殿の外へ出てきたので、私はカオルと相談して、  そして、呟いた。 「元に戻して」
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