祝賀会

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祝賀会

 すべてが終わった  とりあえず、終わった。    犠牲になった人がいるから素直に喜ぶことはできないけど、あれだけの攻撃は60年ぶりだと聞いた。  やっぱり大事(おおごと)だったのだ。    二人の魂が元に戻ったとき、カオルは私に何かを言った。 「魔法でこのあと演出の準備をしておきました。楽しみに待っていてねプリンセス。まぁ、最後の仕上げはおばあさまにお願いするけどね」  確か、そんなことを言っていた。  そのあと、カオルはおばあさまの元へ行った。宮殿の外にいる女王の周りには人が集まっていた。  宮殿の外に出るのは本当に久しぶり。朝の光を浴びてるおばあさまなんて、初めて見たかもしれない。  その女王にカオルが何か耳元で話をしていて、わかったと言うように笑顔を返してもらつていた。  みんなの中心で、女王であるおばあさまが静かにするようにというジェスチャーをした。  それから大きな声で話し始めた。 「みなさん、聞いて下さい。昨夜は大変なことが起こってとても怖かったと思います。でももう大丈夫です。それを解決したのは孫のナナです」  え?  私は驚いた。カオルが誉められると思っていたから。  でも、入れ代わる魔法は近親者しか知らない極秘だったことを思い出した。  私は遠くからベコリと頭を下げた。  一斉に私への拍手が起こった。 「実は昨夜、孫のナナは結婚しました。ローズ家の王子である花山カオルさんとです」  みんなの歓声は一段と高まって拍手喝采は声が聞こえていないはずの街まで広がっていった。  祖母は声に魔法を掛けて、私たちの国の人々全員に聞こえるようにしていたのかもしれない。  それから、ここで初めて聞いた。  花山カオルがローズ家の王子様?だったなんて。  ローズ家は私でも知っている世界でも屈指の格式高い名家だ。その王子が死も覚悟して私の国へ婿養子に来たなんて、信じられない。  私はしばらく混乱した。  (ポンコツ状態になる) 「私はこれからは国の政治を中心に頑張り、魔法に関しては孫のナナに任せることにしました。まだ若く未熟なので失敗もいっぱいすると思いますが、温かい目で見てやって下さい」  そう言って、ウインクをすると、  朝の青空に花火が上がった。  バァーン!  バァーン!  バァーン!  パンパンパンバン、バァーン!  あの数千のミサイルを花火に変える魔法を掛けていたんだ。  カオルも粋なことをするんだ。笑  平和と私たちの結婚を祝う花火は数十分に渡り青空を飾った。  きれいだった。  そして、カオルが私のそばに来て笑った。 「疲れたでしょ?」  そう話しかけたら首を振り、 「全然。楽しかったです」  そう言った。  こいつ、めっちゃ可愛い笑顔をするなぁって私は思いながら、その顔を見続けていた。 「妬けるなー」  急にそう言って、私に抱きついてきたのはクラスメートで親友の柚月(ゆづき)杏奈だった。  そうか、あんな騒ぎで学校も休みになってるはずだ。 「まさか、謎のイケメン転校生が一夜で夫なんて。ナナ、さてはおまえが襲ったんだろう?、カオル王子様は手込めにされたか?、おいおい、カオル王子様がかわいそうで同情する!」  そう言ってカオルの肩を叩いて抱いて、慰める格好をしていた。  結婚という話を聞いて、私たち二人への挨拶がこと後はずっと続いたのだった。  宴のような賑わいは昼まで続いた。二人は徹夜でかなり疲れていたので部屋で休むように言われた。    いつの間にか、私の部屋が無くなり夫婦の寝室になっていた。  いくらなんでも心の準備が追い付かない。  剣崎に言わせると、結婚もしたので世間体もあり部屋を同じにしているだけで、二人の関係は二人で築いていって欲しいと言われた。  そうか、とりあえず、ただの同居人だ。それでいい。よな?  カオルはやっぱりかなりの疲労があったんだと思う。部屋に入ってツインベッドに横になるとあっという間に眠り込んだ。  私は、その寝顔をしばらく見ていた。飽きなかった。  ローズ家。  ならば、あの薔薇の庭園とも関係がありそうな気もする。  確かにあのとき、プリンスって呼んでる声に慌てていた。  あのときの背の低い男の子がカオルなのだろうか?  そんなことを考えていたら私も座ったまま眠り込んでいた。  思いっきりヨダレを垂らして。  カオルに起こされたときは夜になっていた。  胸の辺りがびしょびしょになるほどヨダレを垂らしていて赤面する。 「入浴して着替えてきたら?」  カオルにそう言われて従う。  入浴して着替えて部屋に戻ったら部屋に夕食の支度がされていた。  女王の指示で疲れているはずだから今日は二人で部屋で食べなさいと言うことでしたと説明された。  これが夫婦生活の始まり。  どうなるんだろ?  不安はいっぱいある。  敵もまた襲ってくると思う。 「カオル」  カオルがベッドに座ったまま頭だけをこちらに向けた。 「気になったんだけど、結婚したあと、ずっと私のことをプリンセスって呼んでるけど、それでいくつもりなの?」 「ダメかな?」 「少なくても二人のときはナナでいいよ」 「わかった」 「それと、いろいろ聞きたいことは山ほどあるんだけど、どこまで聞いていいのかもわからないし、これから時間もいっぱいあるから追い追い聞かせてもらうけど、これから、宜しくお願いします」  少し女の子らしく、下を向いてウジウジしながら話していたら、いつの間にかカオルが目の前まで来ていた。 「こちらこそ、宜しくお願い致します。ナナ」  そう言ってカオルが満面の笑顔を見せた。そして、私の嬉しそうな顔を見て更にその顔が可愛く崩れて、そして、少ししゃがんで、私の顔をのぞく仕草をしたから、 「チュッ!!!」  あっ、やばっ、やっちゃったー、 「あっ、ごめんカオル、私は疲れていて正常じゃないみたいだ。私は絶対にこんなハシタナイ女じゃないからな!」  そんな長い言い訳をしていたら、 「チュッ!!!」  えっ。 「俺は嬉しいよ」 「でもさ、いつも君とキスをすると血の味がする。唇を噛むクセは直した方がいいよ。あとで薬用のリップをあげようね」  そんなことを言われた。  唇を触ると、目茶苦茶荒れていて、血が少し指に付いた。    昨日から何度も唇を噛んでしまい、本当にかさぶたになっていて、出血しやすくなっていたようだ。  それにしても、いつも君とキスをするとって、これが二人の初キスなのに。結婚式のときはおでこだったし。  あっ、薔薇の庭園でも私は死にたいって言って思いきり唇を噛んでいた。あとでおばあさまが私の血だらけの唇を見てすばやく魔法で治療してくれた。だから、誰にも気づかれていなかった事実だった。  あのとき、私にキスをした男の子しか知らない事実だった。  カオル。  あなたは、あのときの、私の初恋の男の子なの?  それとも、あの男の子から聞いたのかな?    わからない。  でも、カオルから言うまでは、しばらくは聞かないでおこう。  なんとなく、その方がいい気がしたんだ。この日の私は。  
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