第三章 毒食らわば皿まで

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 ――何が、『以前から交際』だ。ぬけぬけと嘘つきやがって……。  蘭は訂正しようとしたが、それよりも早く養父が答えてしまった。 「もちろんでございます。どうぞどうぞ、ふつつかな息子ですが、もらってやってください」 「ちょっと待って。俺はまだ、そこまで考えてない……」  蘭は慌てて身を乗り出したが、養母は一笑に付した。 「この子ったら。この期に及んで、照れなくてもいいでしょう」 「そうそう。白柳家とご縁ができるんだぞ? ああ、夢のようだ……」  養父は、上機嫌で陽介にワインを勧め、自分もあおっている。蘭は、舌打ちしたくなった。養父は、『M&Rシステムズ』という新興IT企業の社長なのだ。大物政治家の家系とつながりができるなんて、願ってもないのだろう。養母にいたっては、根っからのミーハー気質である。要するに、この場に蘭の味方はいないのだ。 「……あのね、二人とも聞いてくれる? 照れてるとかじゃないから」  蘭は、冷静に切り出した。 「知ってのとおり、俺は会社も辞めて、今後どうするかも決まってない状態だ。だから、陽介さんはこう言ってくれるけど、時期が早いと思う。今回の件は、俺と彼の間で意思疎通ができていなかった。俺はまだ、結婚するつもりはない」 「そんな……」  養母が、眉を寄せる。そこで口を開いたのは、陽介だった。 「そうですね。確かに、僕が先走りました。それは、蘭にすまなかったと思っています」  おや、と蘭は陽介の顔を見た。考え直してくれるのか……? 「でも、結婚を急いだのには、それなりの理由があるんです。実は僕らは、番になりました」  陽介が、そっと蘭のうなじに触れる。その手を振り払いたいのを、蘭は必死に我慢した。  ――何てことを、バラしてくれるんだよ……。 「大事な番を、宙ぶらりんな状態にはさせたくありません。ですから、蘭にも思うところはあると思いますが、早く形を整えたいんです。すでに、新居も用意しました」
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