【五章】ー雪山ー

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 一人風呂場に残されてしまった望。 浴槽に浸かっている望は、今日に限って珍しく切なそうな表情を浮かべている。  望は一人になってしまい、浴槽の壁に背中を寄り掛からせて天井を見上げ、一息ついた。  雄介が東京に戻ってきてからは、二人が休みの日には一緒にお風呂に入って、二人だけの時間を過ごしていた場所。  だけど今は、雄介を怒らせてしまい、望は一人でお風呂場に残されてしまった。  休みの日以外はほとんど雄介と望が会える日なんてないくらいなのに、しかもお風呂も一人で入ることに慣れてきた感じだったのに、今日に限っては雄介が行ってしまってから急に寂しい感じがするのは気のせいなのだろうか。  本当に今日の雄介は機嫌が悪すぎるっていうくらい機嫌が悪い。  しかも雄介曰く、和也たちが泊まりに来ているからだと言っていた。 「やっぱ、雄介の機嫌を損ねたのは俺のせいなのかなぁ? 確かに今まで雄介と一緒にいる日には一緒にお風呂にも入っていたし、俺も雄介に甘えていたしな……ま、後は……そういうことだったし」  望はお湯に手をつけて顔を洗った。  それは気持ちを切り替えるためだ。  そして望はもう一度ため息をついたのだが、それはさらに望を虚しくさせるだけだったのかもしれない。  望は浴槽から上がると体を洗った。その時、タオルが胸の突起に当たっただけで望の体は反応してしまう。  雄介が東京に戻ってきてからは、休みの日が重なるだけで望は雄介に抱かれていた。 だからなのであろう。 もう体が雄介を求めているのかもしれない。  もう望の体は何かに触れただけで反応してしまっているのだから。 いや、望自身も今日は雄介を求めているのであろう。 「……ったく。 触れたいのはお前だけじゃねぇんだよ。 俺だって、俺だってな……触れたくて、触れてほしいと思っているんだからな。 そこに気付けよバーカ」
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