于吉が雨を降らす~『捜神記』~

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 孫策が長江を渡り曹操(そうそう)の拠点である許昌(きょしょう)を攻撃しようと企てた時のことである。  于吉(うきつ)を軍に同行させていた。 ※注・同行の理由は記されていないが、合戦の勝利のための祈祷や呪術、占いを行わせるためだったと思われる。  ところが干ばつ《かんばつ》のため河の水は少なく、船は一向に進まず、苛立った孫策は自ら兵のもとに向かい、檄を飛ばそうとした。  すると兵たちは于吉のもとに集まって、教えを受けていた。  孫策は、この様子を見て激怒した。 「俺が于吉に及ばぬと申すか。さっさと奴をひっとらえよ」    于吉が引っ立てられてくると、孫策は于吉を罵った。 「雨が降らず川の水が干上がり、船が前に進まぬ。これではいつ許昌に着けるか分からん。俺が早く船を進めようと苦労しているのに、貴様は俺の気も知らず、船の中で惰眠をむさぼり、軍律を乱した。死罪に処する」  孫策は于吉を柱に縛りつけ、 「天を動かし、雨を降らせてみよ。昼までに雨を降らせたら命を助けるが、出来なければ即刻死罪だ」 と告げた。  まもなく雲気が立ち(のぼ)り、真昼になると大雨が一斉に降り、川の水は満ちあふれた。兵たちはこれで于吉が助かると喜び、于吉のもとに駆け寄って祝いの言葉を述べた。ところが孫策は、理不尽にも于吉を殺害した。  兵たちは悲しみ、遺体を人目につかないところに安置していたが、不思議なことに翌朝、遺体は消えていた。  于吉の死後、孫策がひとりでいると、度々、于吉がすぐそばに姿を現すようになった。  孫策は于吉への後ろめたさから、次第に精神が追い詰められていった。  孫策の傷が治りかけたとき、孫策が自分の顔を見るために鏡を覗くと、鏡には于吉の姿が見えた。後ろを振り返っても誰もいない。それが何度も繰り返された。  孫策が恐怖のあまり鏡を床に投げつけ、大声で叫ぶと、体中の傷口が裂けてそのまま絶命した。  于吉とは琅邪(ろうあ)の人。道士である。 ※注・なぜ傷を負ったかは全く記載なし。 ↓中国の古い連環画(絵物語)より引用。于吉のために死亡する孫策b729b993-7bfb-4c3d-a1dd-e995db8b8567
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