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張天師の祈祷で疫病は退散し、洪大尉は誤って妖魔を逃がす~水滸伝
↓1947年に刊行を開始した岩波文庫『水滸伝』第一巻。訳者は中国文学者で文学博士、最終的に京都大学名誉教授までに昇りつめた吉川幸次郎(1904~1980)。最終的に教え子の清水茂が完結させた。講談調の楽しく読みやすい訳文。
↓平凡社の「世界名作全集」第五巻に収録された駒田信二(1914~1994)による『水滸伝』縮訳。1961年刊行。駒田信二は作家、文芸評論家、中国文学者。駒田には『水滸伝』全訳がある。
この貴重な訳本が古本屋の店先でたったの200円。
※高島俊男『水滸伝と日本人』(大修館書店 1991)によると、吉川幸次郎の『水滸伝』は学界で不評だった。
駒田信二は吉川幸次郎の『水滸伝』に目を通し、誤訳が多いことを調べあげた。
ちょうどその頃である。京都大学で吉川に目をかけられていた松江高校教師時代の教え子、高橋和巳(1931~1971)が尋ねて来た。
中国文学者で作家でもあった高橋が、京都大学助教授になる前のことだと云う。
駒田は吉川訳の誤りを指摘し、
「こんなに誤訳が多いのに、公然と自分の訳が一番と言うのか。そう駒田が言っていたと伝えてくれ」
と話した。
「吉川先生にそんなことは出来ません」
高橋が断固拒否したため、駒田は吉川への手紙を託した。
駒田は述べる。
<高橋君が私のその手紙を吉川さんに渡したかどうかについては、確証はない。それきり高橋君からは手紙も来なくなり、もちろん私の家にも来なくなった>『書けなかったこと』(1981)
両者の『水滸伝』ともに名訳であり、日本の中国文学研究の誇りだと思う。
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