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中国の宋王朝の仁宗の時代であるが、嘉祐三年に疫病が大流行したことがあった。
首都・東京(開封)の被害は甚大で、軍民関わらず多くの死者を出したのである。
包青天は自らの財産を投げ出し薬を調合して、民草の救済にあたったがその甲斐もなく死者は増え続ける。
ここに仁宗皇帝は民の苦難を救うため勅命を出し、洪大尉を勅使として竜虎山に派遣。張天師に東京に来て法術で、疫病を退散させ、民を苦難から救うように要請することとなったのである。
洪大尉は長旅の末、ようやく竜虎山の清宮(道教の寺院)を尋ねるが、住職(原文は住持)の真人は、大尉自ら山頂に行き、張天師に真心をこめてお願いするよう伝えた。
翌朝、大尉は、たったひとりで山道を登っていった。
けわしい山道を進むうち、身体は疲れて足は進まず、ついつい不平不満を口にする。
すると突然、巨大な咆哮と共に巨大な虎が出現し、大尉の眼前でうなり声をあげた。大尉は生きた心地もなく震えあがったが、やがて虎は大尉の前から離れていった。
朝廷の高官がなぜこのような恐ろしい目に……。
恨みの想いを口にすれば、今度は茂みより巨大な白蛇が出現し、眼を光らせて大尉をにらみつけた。
もはやこれまでと思いきや、白蛇もそのまま大尉から離れていった。
大尉があわててこの場から離れようとすれば、今度は松の木陰より笛の音がして、それが次第に近づいてくる。
やがて黄牛(中国で飼育される主な牛。茶褐色が多い)に乗り、横笛を吹く童子(子ども)が山から下りて来た。
「おい、そこの子ども。わしが誰だか知っておるか?」
「おじさん、大師に会いに来たんだろう」
「何と。牛飼いの子どもが、なぜそのようなことを知っておる」
「おじさんの来ることなんか、とうの昔にお見通しさ。張天師なら、陛下の願いにお応えするため、とっくに鶴に乗って東京に向かったよ」
そう言い残し、山を下りて行った。
洪大尉は不思議に思いながら清宮に戻って真人に、ことの次第を説明する。
「大尉殿、その童子こそ張天師でございます」
大尉はそれを聞いて驚き、思わず嘆息する。
「何とまあ、このわしは、見る目のない人間であることか」
↓中国の『水滸伝』の古い挿画。「洪大尉、張天師に会う」
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