第33話 歯がゆいのぅ ~ソフィアサイド~

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第33話 歯がゆいのぅ ~ソフィアサイド~

デシエルトとかいう奴の屋敷を訪れてから数日経つが…… あやつは何をちまちまやっておるのじゃ! 街に出ては人々に話を聞き、また屋敷へ向かって話を聞き追い返され…… その繰り返しじゃ! いったい何をしたいのかが、さっぱりわからん。 「おぬし、いったい何をしておるのじゃ」 「情報収集だよ」 「ジョーホーシューシューとな?」 「何をそんなに時間をかけておる」 「まずは『敵を知り己を知れば百戦危うからず』だよ」 「何じゃ、それは……」 「敵を知って、自分を知れば、危険なことはないってこと」 あやつは妙なことを言うのぅ。 敵を知る必要ないじゃろ。 「そんなのは圧倒的な力を示せば……」 「それはそれでわかるけど……」 「今は人質にとられているかもしれないデシエルトさんを助け出す必要があるから」 「万が一にも、命を落とさせてしまってはいけない」 「だから慎重に動いているんだよ」 うーん。 人というのはそういうものなのか。 さっぱりわからんが…… ただ、あやつのことを無視して、剣を捨てられてしまうと封印は解けなさそうじゃしのぅ。 でも聞いてばかりじゃ進まんと思うのじゃが…… 「のぅ、おぬし」 「何? ゾルダ」 「話を聞いてばかりじゃ、何も起こらないと思うのじゃが……」 「ここは、屋敷の様子をこっそり覗くとか出来ないかのぅ」 「確かに!」 「そこでじゃ」 「ワシがこっそり覗いて来るというのはどうじゃ?」 このワシにしては名案じゃろ! あやつもいい返事を出してくれるじゃろう。 「うーん……」 あれ? なんかワシが思ったのと反応が違うのぅ…… 「何かワシの案に不満でもあるのか?」 「いや……」 「案としてはいいんだけど、ゾルダに任せるのが不安というかなんというか……」 何? ワシに任せられないというのか! 「おぬしはワシが信用ならないというのか」 「うん」 あやつ、即答しおった。 苦笑いしかでてこない。 「な…何故じゃ」 「えっと、そのまま暴れてこないかと……」 「そんなことはせん!」 「こっそり覗いてくると言ったじゃろ!」 「えーっ、でもなぁ……」 「そうやってすぐ怒るし」 確かにちまちまとやるのは性に合わないし…… すぐに頭にくるが…… でもこのまま何日も暴れられないのは困るのじゃ! 「じゃが、じゃがのぅ……」 「やっ……やっぱり中の様子を伺ってじゃのぅ」 「まずは直接見るのが、一番手っ取り早いのじゃ」 「確かにそうだけどさ」 「ならおぬしが行くか?」 「ワシなら飛べるしひょひょいって行けるぞ」 「わかった、わかったよ、ゾルダ」 「一度それで試してみよう」 「ただ、絶対に暴れちゃダメだからな」 ようやく、分かってくれたか。 ここまで酒ばかり飲んでいて…… それはそれで楽しいのじゃが…… 動かないのもそれはそれで苦しいのじゃ。 今はせめて少しでも動ければいいのじゃ。 「うむ、わかった」 「安心しろ、暴れはせん」 あやつは、多少不安な顔をしておるが、そこまで信頼がないのかのぅ…… 今までもさんざん助けておるのに。 あやつを放っておいたことはないのにのぅ。 あやつとワシはデシエルトという奴の屋敷の裏手に向かった。 ここであればあまり人通りもなく、忍び込むにはいいところじゃ。 「じゃ、頼むよゾルダ」 「何回も言うけど、暴れるなよ」 はぁーっ。 またそれを言うか。 「何度も言わなくても分かっておるのじゃ」 「ワシに任せろ」 そうあやつに話すと、すっと塀を飛び越えて中に入った。 塀の中は広々とした庭じゃのぅ…… 屋敷までだいぶ距離があるのじゃ。 見つからないようなヘマはしないが…… まぁ、見つかっても、ひねりつぶすだけだしのぅ。 ゆっくりと魔力を押さえながら屋敷に近づいてみた…… ここまでは誰もくる気配がない。 この調子なら、どうなっているかすぐにわかるじゃろ。 そう思いながら近づいていった。 あともう少しで、屋敷の中が見えるところまで近づけた。 「これは楽勝、楽勝じゃ」 そこからさらに屋敷に近づこうとした。 その瞬間に…… あれ? 体が言うことを聞かないのじゃ。 「ち……力が抜ける……」 ふと気づくと、あやつの目の前に立っておった。 「あれ?」 「ゾルダ早いじゃん」 「もう終わったの?」 「?」 「屋敷に近づいたと思ったのじゃが、なんでここにおるのじゃ?」 確か屋敷に近づいたところで、力が抜けていった感じになって…… 何がおこったのかさっぱりわからんのじゃ。 「そんなことを俺に言われても……」 「もう一度行ってくるのじゃ」 訳が分からんが、とりあえずまた屋敷に近づくのじゃ。 だが……だがじゃ。 また同じぐらいのところまで行くと、あやつの近くまで戻ってきてしまう。 どうしたものか…… 「もしかして、ワシが近づけない、何か結界のようなものがあるのかのぅ」 「それにしても、おぬしの近くに戻ってきてしまうのは解せぬ」 「そうだな……」 あやつも何か思い当たることがないか考えている様子じゃ。 ワシも考えるか…… ………… …………………… 思いつかん。 何が原因なのじゃ? 「ゾルダ、もしかしたらだけど……」 「俺というか剣とどのくら離れたかじゃない?」 「おぬしの剣とのか……」 「そう」 「だって、最近はこうある程度自由に出てこれるようだけど……」 「ゾルダはこの剣に封印されているんだし、剣から離れすぎることが出来ないんじゃないかな」 そういえばすっかり忘れておった。 あまりに自由過ぎて、ワシが封印されているという感覚が薄れていたのぅ。 確かに、戦いの時もあやつの持っている剣からはあまり遠くには行っておらん。 「うむ」 「そうかもしれんのぅ」 「となると、俺も一緒について入らないと近づけないってことか……」 「二人で入っていくのはちょっとリスクが高いなぁ」 「どうしようかな……」 そこまで考えることなのかのぅ。 剣も一緒に近づいて行けばいいのだから…… 「ワシがおぬしを抱えて行けばいいのじゃろ?」 こうするればいいのじゃないかのぅ。 我ながらいい発想じゃ。 「俺にはゾルダみたいに気配は消せないし、簡単に見つかっちゃうよ」 うむー。 それであれば、これならどうじゃ。 「おぬしの剣をワシが持って行くのはどうじゃ?」 「確かにそうかも」 「ちょっと試してみるか」 ほれ、ワシにかかれば、こんなのちょろいわ。 「さて、それでは、剣を持たせてもらうかのぅ……」 剣を持とうと手を伸ばしてみた。 だが、全然持つことが出来ないのじゃ。 「ふんっ」 「おりゃ」 「どりゃーーーー」 何故か知らんが手がすり抜けてしまう。 何度も何度も試すが、持つことが出来ないのじゃ。 「俺にもよくわからないけど……」 「封印されているものには触れることが出来ないのかもな」 「ぬぐぅ……」 「これでは、近づけないではないか!」 「仕方ないよ」 「また別の方法を考えるしかないよ」 ワシらだけではどうにもならないのかのぅ。 ちと歯がゆいのぅ…… 他に何か方法はないかのぅ…… ワシとあやつとで考え込んでいると、後ろから近づく人影が見えた。 「そこにいるのは誰じゃ!」
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