第38話 人質の救出 その2 ~アグリサイド~

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第38話 人質の救出 その2 ~アグリサイド~

フォルトナが先に行ってから、少しの時間が経った。 合流地点の隠し通路の入口前で、フォルトナの帰りを待った。 予定では人質が逃げてくるのを待って、フォルトナと合流。 それからそのまま敵のアジトへ乗り込み一網打尽にする。 そういう計画だった。 しかしなかなかフォルトナと人質が出てこない。 何かあったんだろうか。 少し心配になりながらも、今は待つしかなかった。 「おぬし、小娘の娘のことを心配しておるのか」 ゾルダが俺の顔色を見たのか、話しかけてきた。 「ちょっと遅いからな」 「フォルトナの実力からすれば大丈夫だとは思うんだけど……」 「ちょっと抜けているところがあるし……」 「失敗していければいいけど……」 「そうじゃのぅ」 「小娘の娘は調子乗りというかなんというか」 「前も周りを見ずに突っ込んでいったからのぅ」 たしかに。 シルフィーネ村の北部の祠の時は大変だった。 後先考えず走り出してシエロに捕まっちゃったし…… 「まぁ、あの時痛い目にあっているんだから」 「今度は慎重にやっているだろう」 言葉とは裏腹に、手のひらには汗が滲んできた。 まぁ、心配は心配だしね。 でも、信じて待つしかない。 そんな会話をして待つも、一向にくる気配がない。 さすがにこの遅さは異常だ。 「なぁ、ゾルダ」 「そろそろ本当にマズくないか」 「確かにのぅ」 「何かあったとみてよさそうじゃな」 身支度をして、敵のアジトへ向かおうとしたところ…… 隠し通路の奥から足音と息遣いが聞こえてきた。 「タッタッタッタッタッタッ……」 「ハァハァハァハァ……」 徐々に音が大きくなる。 こちらに向かってきている音だ。 不測の事態に備えて剣を身構える。 「ダンっ」 隠し通路の扉が開くと、そこには女性と子供の姿が現れた。 「ハァ、ハァ、ハァ……」 「あっ……あなたが……」 息を切らした女性がこちらに話しかけてきた。 「わ、わたしは……」 「リリアっ……とっ……申します」 「このイハルを治める……デシエルト様の側近、エーデの妻です」 この人がエーデさんの妻か。 ということはフォルトナは人質の解放には成功したようだ。 「初めまして、俺はアグリと申します」 「あなた方を救出に参ったものです」 その言葉を聞いてか、リリアさんはホッとした表情を浮かべた。 「ところでリリアさん」 「あなたを逃がしてくれた人は一緒に来なかったのですか?」 「はい」 「私たちをこの通路に案内した後……」 「通路の先に男と女がいるので助けを求めてくれと言い残して……」 「扉を閉められました」 あれ? もともとは一緒についてくるはずじゃなかったっけ。 「では、まだ向こうに残っているってことですね」 「そうなるかと思います」 「分かりました」 「リリアさんはとにかく、街まで逃げてください」 「私たちが止まっている宿屋があるので、そこへ隠れていてください」 「わっ、わかりました」 この砂漠は暑いが、魔物はここまでいなかった。 ここに残して待っていてもらうという手もあるが、ここも暑い。 それならば、急いで街まで帰ってもらった方が安全だろう。 他に頼れる人が居ればいいんだが、今はいない。 なんとか頑張って帰ってもらうほかないだろう。 とにかくフォルトナを助け出さないと。 「ゾルダ、行くぞ」 「ようやく出番じゃのぅ」 「待ちくたびれたぞ」 隠し通路の扉に手をかけ、進入しようとしたその時。 背後に人の気配を感じた。 「人質のことはお任せください」 突然男性の声が聞こえた。 「あなたはいったい……」 「アウラ様の命により参上仕りました」 「フォルトナ様はクロウに捕まりました」 「救出をお願いします」 しかしアウラさんの配下はどこでも出てくるな。 フォルトナのことが心配で、陰ながら監視しているのだろうか。 「分かりました」 「あとはお願いします」 そう言い残すと、隠し通路に入っていった。 まずは敵のアジトへ向かってひた走る。 フォルトナが捕まり危ない状況だ。 一刻も早く助け出さないと。 「おぬし、何をそんなに急いでおる」 「慌てんでも、アジトにいる敵なぞ、ワシが逃がしはせぬぞ」 「まぁ、それはそうなんだけど……」 「でも捕まっていれば、殺されるかもしれないし」 「とにかく早く行って助け出さないと」 「まったく……」 「世話をかけるのぅ」 「小娘の娘は……」 「とにかくアジトへ急ごう」 一本道の隠し通路をひた走り…… ようやく隠し扉に辿りついた。 扉の向こう側からは野太い声が聞こえてくる。 「さてと、人質たちがいないようだが……」 「お前らは何をやっていたんだ!」 「揃いも揃って役立たずが!」 だいぶ荒げているようだ。 慎重に隠し扉を明けてみるが、すぐ近くではないようだ。 声がする方へ向かってみる。 「お前たち、覚悟できているんだろうな」 「こいつを締め上げた後、きちんと罰は受けてもらうぞ」 「………………」 一瞬の沈黙の後に、野太い声が話を続けている。 「さぁ、お前がやったんだろう」 「……………………」 「まだ白を切るつもりか!」 「……っ…………く……」 声はこの部屋から聞こえるようだ。 「ゾルダ、ここみたいだ」 小さな声で話しかける。 「おぉ、そうか」 ゾルダがうなづいたと思ったら…… 思いっきり扉を蹴り上げて壊してしまった。 「ちょっ、ゾルダ~」 当然みなさんこちらを注目しますわな…… 「おい、ゾルダ」 「何をしているんだ」 「もっと慎重に進めないと……」 「ちまちま進めるのは性に合わん」 「正々堂々と正面突破あるのみ」 「ハッハッハッハッハッハッハッ」 強いのはわかるけど、なんでこう〇〇の一つ覚えのような行動なのか。 フォルトナに何かあったらどうするんだ。 「誰だ、貴様たちはー!」 野太い声がこだまする。 「ワシか?」 「ワシはゾルダじゃ」 「おっ、小娘の娘、こっぴどくやられておるのぅ」 「来るのが遅いよー、ゾルダ、アグリ」 「わるいのぅ、あやつが慎重に慎重にというもんじゃから」 「ここまでくれば、慎重も大胆もなかろう」 「おいおいオレ様のことは無視して話するな!」 野太い声の主がこちらに向かってくる。 「ん?」 「お前がクロウとかいう奴か」 「相手をしてやるから、こっちへ来い」 ゾルダはクロウを挑発して、こちらに気を向ける。 「なんだと貴様ー!」 クロウはフォルトナを放り投げ、ゾルダに向かっていった。
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