シェリー

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シェリー

 午後二時、携帯が鳴った。 知らない携帯番号から……。  今までは知らない番号からの着信には出なかった。  でももしかしたら携帯を失くした知り合いが他の誰かの携帯を借りて掛けているのかも……。そう思って出ることにした。 「はい……」 「シェリー、久しぶり……」  誰……?  私の名前は涌井 詩絵里(わくい しえり)。  でも家族や親しい友人はシェリーと呼ぶ……。  それを知っているということは知り合い?  私の携帯番号も友人から聴いたのなら変ではない。 「あぁ、はい……」 誰なのか分からないので曖昧に答えた。 「きょうは雨が降っているね。君は濡れてない?」 「えぇ、大丈夫」 誰なんだろう? 思い出せない……。 「そうか。良かったよ。じゃあまた」 電話は切れた。  誰なの?   声に聴き覚えが有るような……無いような……。  通りに面したアパレルショップ。私はそこで店長をしている。  お昼休みは若い子たちから順番に取って貰って、私はいつも二時からの一時間が休み時間。  それも知っていたのなら友人の誰か……。  翌日も午後二時に電話は掛かって来た。 「シェリー? きょうは良いお天気だね。気持ちが良いよ」 「えぇ、本当に……」 でも誰なのか、まだ思い出せない。 「次に会う時は薔薇の花束を持って行くよ。真っ赤な薔薇のね」 「ありがとう……」 赤い薔薇が好きなのも知っているの? 「じゃあ、また」 それだけで電話は切れた。  その翌日も掛かって来た。 「シェリー、きょうは風が爽やかだね」 「えぇ。私、今テラスに居るの。風が気持ち良いわ」 「今度、テラスで一緒にシャンパンを飲もう」 「楽しみにしているわ」 「あぁ、僕も楽しみだ。乾杯しよう」 「そうね」 「シェリー、メルシーボクー……。アデュー」 電話は切れた。 「えっ? ……さよなら?」  それから……プッツリと電話は途絶えた。  誰だったんだろう……?
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