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端から見れば痴話喧嘩のようなやりとりだが、それでも綾音と夏海は仲が良い。
要は犬猿の仲であるが、"喧嘩するほど仲が良い"というやつだ。
すると杉谷は何かを思い出したように、ソファーの脇に置いていた発泡スチロールの箱をテーブルの上に置く。
「あ、そうそう。
今日遊びに来た目的だったんだけど……
姐サン、これは上物でっせ?
市場に流れれば末端価格は、両手の平から溢れる銭で間違いなし……」
箱の中は北海道で今が旬のただの稚貝なのに、大袈裟なやりとりを始める杉谷。
それに対し、綾音も彼女の遊びに付き合い始める。
「綾乃さん……!! そんなやベー"ブツ"をシャバに流したら、市場が大混乱するじゃないですか!!
そんな物が日常に蔓延りだしたら中毒者が後を絶たないのは勿論、日本の株価だって揺らいでしまう!
……アンタも悪になったもんだね、綾乃さん」
ヤクザ事務所を運営する女組長になりきり、偉そうにソファーで足を組み、自分の分を入れたアイスコーヒーに差したストローを取り出してタバコを吹かす仕草を真似る綾音。
悪そうな顔で稚貝と氷を入れた袋の口を開け、シンナーを吸うような仕草で匂いを嗅ぐ綾乃。
"コイツら、まじでバカだ"と白々しい顔でアイスコーヒーを飲む夏海。
そんな3人は口にしなくとも、脳裏に思った事は数千年に一度のシンクロニシティが偶然にも一致していた。
"これ…何の時間?"
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