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「文ちゃん、高いところ届かないでしょ?無理しなくていいよ」
私の背後に近寄った四葉は、私の黒板消しを握っている手に上から自分の手を重ねてきた。
「な、なにすんのよ!」
「え?だって文ちゃん背が低いから」
四葉はそう言うと黒板消しを私の手から自分の手にもちかえて天井近くの文字を消し始める。
四葉はいつの間にか、背がぐんぐん伸びてしまって私よりも頭ひとつ大きいくらいの背になってしまった。
私は恨めしげに四葉をじっと見る。
四葉は
「なにー?」
と微笑み、その顔を見た周りの女の子から歓声が上がった。
「あー、付き合いきれない…」
「ちょっと、文ちゃん?」
私は四葉の声を背中に聴きながら呆れたように自分の席に向かった。
*
昼休みになり、私と四葉はお弁当を広げて、中庭の花壇に座っていた。女の子の集団は四葉がマイペースにかわしてくれたらしい。私はおにぎり弁当で、四葉はサンドイッチだ。
「ところでさ、文ちゃん。もうそろそろ雑草が伸びてきたころでしょ。箱庭の庭掃除行かないといけないんだ」
「あ…そうだね」
「母さんが仕事忙しくなっちゃって。掃除、俺ひとりなんだよね」
四葉は水筒のコーヒーを啜りながら呟く。四葉の淹れるコーヒーはおじいさんと同じでいつもカカオの香りがする。
「え、それじゃ私も手伝うよ」
「いいの?助かるよ。カモミールとかミントとか持ってかえっていいからさ」
私は頷いて、梅干しの入ったおにぎりを頬張る。久しぶりに箱庭に行けることになって、私も上機嫌になった。私の表情を見た四葉が顔をほころばせる。
「嬉しそうだね、文ちゃん」
「うん。あの庭、いまも四葉が手入れしてくれてるんでしょ?」
「まぁね。じいちゃんが大事にしてたから、枯らすのは悪いし」
それを聞いて私も微笑んだ。
そのとき、四葉のコーヒーの香りに混じって、鼻に突き刺さるような嫌な香りがした。
周りを見渡すと、校舎の裏にある自販機の影でクラスの男子がタバコを吸っているのが目に入った。
「あいつら…!」
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