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私が立ち上がろうとしたのを、四葉が腕を掴んで制した。
「なにするの?」
「…真面目なのは文ちゃんのいいところだけど、そんな風にぶつかっていくことばかりが正しいとは俺は思わない」
四葉が穏やかだけど意思の強い声で言う。私はその手を思い切り振り切った。
「だって、他の人が迷惑してるじゃん!コーヒーだって香りがわかんなくなっちゃったし…規則は守らなきゃだめだよ!」
私は男子たちの元へ走っていく。タバコをふかしながら、笑い声を上げていた男子たちは私の姿を見てめんどくさそうな顔をした。金髪の男子と、丸メガネをかけた男子、そしてピアスをつけた男子が立っている。
「げ、真面目ちゃん」
「なんだよ、梶山」
私はスマホをかざすと、タバコを口にくわえた男子たちの姿を写真に撮った。シャッター音を聞き咎めて、男子たちが私を取り囲んだ。
「なにすんだよ!」
私は怯まずに写真を突きつける。
「この写真、先生たちに見られたくなかったら、いますぐタバコを捨てなさい」
「はぁ?」
「あんま調子に乗んなよ」
金髪の男子が私の肩を手のひらで押してきた。衝撃が肩から身体全体に伝わる。私はバランスを崩して地面に尻餅をついた。
「きゃっ!」
「いいこちゃんならなに言ってもいいと思うなよ」
ピアスの男子が私のシャツの襟首をつかみ上げた。首が締まって苦しかったが、私はピアスの男子の腕を掴んで抵抗する。
「だって、規則を破ってるのはあなたたちでしょ!いけないことをいけないって言ってなにが悪いの?!」
「そういうのがうぜぇって言ってんだよ!」
首元を掴む力が強くなり、私は喉をひゅーひゅーと鳴らす。視界の端の方に、四葉とジャージを着た先生が走ってくるのが見えた。
「四葉!」
「文ちゃん、いま先生呼んできたから!」
「こら、何してるんだ!」
ピアスの男子はさっと私のシャツの襟首から手を話すと、私の横を過ぎて、仲間と一緒に大慌てで裏庭のほうへ走り始めた。
ジャージの先生がそれを追いかけていく。四葉は咳き込んでいる私の元へ駆け寄った。
「大丈夫?文ちゃん」
「げほっ…あいつらが悪いのに…なんでこんなことされなきゃなんないのよ」
私の目に涙が滲む。四葉は何もいわずに私の前髪をそっと直してくれた。
「とにかく、文ちゃんに怪我がなくて良かった」
私はまっすぐにこちらを見る四葉の視線が恥ずかしくて、四葉の目を見ることができなかった。
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