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週末の土曜日、私は軍手とごみ袋をトートバッグに入れて、四葉のおじいさんの喫茶店を訪ねた。
庭では、四葉が中腰になり、雑草の草むしりをしている。雑草はわんさと生え、私の膝くらいまで伸びていた。
私が近づいてきたのに気づいた四葉が振り返る。
「あれ?文ちゃんいま来たの?」
「うん、なんで?」
「さっき、玄関で誰かが俺の方見てた気がしたから文ちゃんかと思ったんだけど…違ったのか」
私は首を傾げたが、四葉も大したことじゃないと思ったのか
「じゃあ、一緒に草むしりお願いしていいかな?」
と言った。
私は軍手を着け、ごみ袋を用意して草むしりを始めた。糸のようなメヒシバや、猫じゃらしとしてよく遊ぶエノコログサなんかがハーブに混じって背丈を伸ばしている。
「四葉、しばらく庭掃除してなかったでしよ?」
「うん…俺も2週間前くらいに一度来たんだけど、それから行けてなくて。気づいたらこんなに生えちゃった」
「私もときどき来てあげれば良かったな」
「文ちゃんも忙しいから仕方ないよ。宿題とか部活とかさ」
「そうだけどさ…」
私はカモミールの近くに生えていたふきの葉っぱを思い切り引っ張った。地中の奥深くまで根が伸びているらしく、勢いよく引き抜こうとしたら、私の身体は後ろに思い切り倒れてしまう。
「きゃっ!」
「あはは、すごい頑丈な葉っぱだね、大丈夫?」
「全然抜けなくてびっくりした。これ、かったい!」
私がしゃがみこんでふきの根元を掴む。ふきの根子は深く根を張っているようで、引っ張ってもびくともしない。
すると、四葉は背中から私の身体を抱くようにして私の手に自分の手を重ね、ふきの根子をつかんだ。
軍手越しに四葉の硬い手のひらが感じられて、私の鼓動が跳ねる。
「これは男の俺じゃなきゃ抜けないかもね」
耳のすぐ横で四葉の声がしてくすぐったい。
「(ち、近い…!)」
「あれ、文ちゃん、顔赤いよ?」
「ち、違う!日差しのせいだよ!」
四葉は、そうなんだ~、と能天気に笑う。四葉の鈍感さに私は若干いらだった。
「よーし、いくよ!」
とかけ声をかけ、四葉は力を込めてふきを引っ張った。
しばらく硬い感触が続いていたが、突然、ふきがすぽっと地中から抜けた。反動で、私たちは地面に背中から倒れ込む。
「うわぁ!」
四葉の胸が私の背中に当たっている。四葉は手を伸ばして、私の身体を包むようにした。
「あはは、よかった。抜けたね」
「(こんなところクラスの女子に見られたら私、絞められるわ)」
私はさっさと立ち上がり、ふきの葉っぱをごみ袋に入れて、片付ける。
四葉と一緒にいるのが気恥ずかしくなって、私は素早く中腰になると四葉を無視し、ペースを上げて雑草を抜き始める。
四葉は最初なにか話しかけたり、不思議そうな顔をしていたりしていたけど、私のペースについてくるように雑草を抜いたり、水や肥料をやったりしてくれた。
2時間ほど作業をすると、雑草はほとんどなくなり、庭はすっかり綺麗になった。
「これでいいわね」
「ありがとう、文ちゃん」
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