箱庭の守り人(はこにわのもりびと)

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 次の日、昨日逃げ出した四葉と顔を合わせるのが嫌で、申し訳なくて、私はお昼も一緒に食べずに、帰りも追いたてられるように帰ってしまった。だから、1日四葉の声を聞いていない。    私は罪の意識を感じながら、学校帰りにハーブの苗を買って、夜遅くにあの箱庭へ行った。  せめて、庭を綺麗にする手伝いをしなくては私の気分も晴れそうになかった。  *  日もとっぷりと暮れ、空は群青色に染まっている。  昨日ある程度庭は片付けられて、テーブルや椅子は元通りの位置になっている。だが、千切れたハーブは山になっているし、地面も掘り返されたままになっていた。    私は、勝手に庭に入ったことにどきどきとしながら、山になったハーブをごみ袋に入れる。こんもりと山になった、かわいそうなハーブを見ていたら私の目はまた熱くなった。  一掴みずつハーブの山をごみ袋に入れると、ハーブの鼻に抜ける香りと、泥の匂いが混じり合っている。 「(ごめんね、私のせいで)」  私はハーブを片付けて、地面を整え、新しい苗をそこに植えた。  まだ小さなカモミール、ラベンダー、ミントの苗はちょこんとしていたが、それが植えられただけで庭に新しい命が宿ったような気がする。 「よし…!」  突然、背中越しに懐中電灯の光が当たって、私はどきりとした。 「文ちゃん?何してるの?」  聞き馴染みのある声だったけど、その声を聞いた瞬間、私の心臓が早鐘のように打ち始めた。 「あ…四葉」 「夜中なのに誰かいるって連絡あって。…庭、綺麗にしてくれたんだ」  私は気まずくなって、沈黙した。しばらく、お互い何も言わないまま時間が流れて、私はこのまま帰ってしまおうか、とさえ思った。  だけど、四葉のこちらを心配そうに見つめる顔を見ていたら、なにかいわなくてはいけない気がした。 「四葉、ごめん!」 「え…?」 「私のせいで、庭を…めちゃくちゃにされてしまって。やったのは、きっと私がけんかした男子たちだよ…。全部私が悪いの。おじいさんにも、四葉にもひどいことをしちゃった…」  話しているうちに喉が熱くなってくる。私の胸は罪悪感で苦しいほどだった。一番悲しんでいるのは四葉だと思い、なんとか泣かないように手で顔をぬぐう。 「昨日は、どうしていいかわかんなくて、逃げ出しちゃったの」  四葉は何も言わずに、私のほうへ近づいてきた。私が動揺していると、四葉は少し笑った。 「文ちゃん、お茶飲む?」  
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