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 子供にプロポーズされてしまった。  いや、こんな風に性交渉をもてるくらいなのだから、カイネは子供ではないのだろうが。  それでも突然過ぎて、リイリアは混乱した。 「余は、初めて会ったときから、そなたをずっと愛している」 「……!」  どうやらカイネは本気のようだ。リイリアの顔は、じわじわと赤くなった。  どう返そうか。考える間もなく、カイネが動き出す。彼なりに気遣っているのか、深く攻めては来ず、膣口の辺りを小刻みに往復するだけに留まっている。 「ちょ、待っ……! んっ、ん……!」  痛みに慣れたのか、ただ拒絶するように狭まっていた肉壁は徐々に緩み、ペニスを包み込むように収縮を始めた。その先の感覚を求めているかのようだ。  カイネはゆるゆると腰を前後させながら、リイリアのクリトリスに手を伸ばした。 「ひ、あっ、や……っ! それ、ダメぇ……っ!」 「さて、天国へ行ってもらおうか」  膣道をペニスに行き来されながら、陰核を指の腹で撫でられると、たまらなく気持ちがいい。  いつの間にかリイリアの足は開き、カイネを貪欲に受け入れていた。 「あっ、ああ……っ! おかしくなっちゃう……っ! なっちゃうよお!」  底の見えない悦楽の沼。こんなことはいけないのだと、リイリアはそこから抜け出そうと藻掻いた。しかしカイネの剛直で肉洞をしつこく抉られれば、しがみついていた理性をあっけなく手離し、ズブズブと沈んでいってしまう。 「そろそろか? 今度イクときは、さっきよりもっと気持ちがいいぞ。リイリア」 「……っ!」  先ほど達したときのことを思い出せば、はしたないほど内側が潤む。  もう一度。今度はもっと深く濃い悦楽が待っている――。  しかしカイネは突然、ぴたりと止まった。 「えっ……?」  リイリアは思わず、カイネの顔を覗き込んだ。  カイネは微笑んでいる。 「お姉ちゃん、その前にひとつだけ、僕に誓ってくれないかな? 僕のこと、愛するって。一生、僕だけを愛するって」  再び幼い声を作り、カイネはねだる。  なにを言っているのだろう。自分は明日、別の男の元へ嫁ぐと、この少年は知っているはずなのに。  あともう少しというところでお預けをくらって、リイリアは焦れた。    ――そんなことでいいなら……。  そうだ、どうせ所詮、子供の戯れ言なのだから。 「うん、誓う……。カイネ、私はあなたのことを、一生愛するわ」 「――ありがとう、お姉ちゃん」  カイネは満足そうに頷く。  リイリアの胸は少し痛んだが、別に嘘をついたわけではないと開き直った。  カイネのことを、自分は確かに愛しく思っている。きっとこれからも。――弟のような存在として。  それにカイネに愛を誓ったからといって、運命が変わるものか。  欲深い両親は、なにがなんでもリイリアを、金持ちの貴族に送りつけるだろう。これは覆しようがない、決定事項なのだ。  誰も恨んではいけないと、そう思っていた。誰かを憎めば、惨めになるのは自分だからだ。  ――だけど本当は、助けて欲しかった。  一度も会ったこともないような、父親よりも年上の男のところへ嫁ぐなんて嫌だ。  ――お願いです、お願いです。  無力で、耐えることしかできない自分を、どうか――。 「カイネ……」  ――ひとときでもいいから、私を救って。  気づけば、泣いていた。カイネは驚きもせず、慈愛に満ちた目でリイリアを見下ろしている。 「泣くな、リイリア。余が、そなたを守る。余がそなたを、誰よりも幸せにする。絶対に、だ」  ――最近の子供は、やっぱりませているなあ。  感心するやら呆れるやらだ。涙を引っ込め、リイリアは笑う。そんな彼女に覆いかぶさり、カイネは唇に――それは無理だったので、結局顎へ、ちゅっと口づけた。  二人の背は同じくらいだったが、正常位で繋がってキスしようとすれば、カイネの丈は少し足りないのだ。  体を起こしたカイネは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。 「――帰ったら、牛乳と小魚を重点的に摂ることにしよう」 「ははっ!」  思わず吹き出したリイリアを見て、カイネは眉を吊り上げた。 「余裕があるではないか。ならば手加減はせぬぞ」  そう断ってから、カイネはまた動き出した。 「ふ、あっ、あっ」  文句を言ってやりたいし、聞きたいことだってあるのに。  しかしまともに喋ることは叶わず、リイリアの口から漏れるのは舌足らずな嬌声だけだ。  正常な思考を断とうとするかのように、雄と雌の粘膜が互いを貪り合う、ぐちゃぐちゃと卑猥な音が響く。 「ああ……。余もそろそろイキそうだ。少し我慢できるか?」 「へい、き……」  無用な強張りが解けた雌肉の受け皿は、その代わり陰茎を誘うように締めつけている。あまりの心地よさに、カイネは唸った。 「気持ちいい、リイリア……! そなたは最高だ……っ」  まるで二つの性器はひとつだったかのように、ぴったりと重なった。  溶けて、溶かしてしまいそうだ。  リイリアの下腹に時折走る痛みも、もはや快感を深めるただの刺激に成り果てている。  最初のうちは遠慮がちだったカイネは、やがて本能のままに激しく腰を振り始めた。 「あ、ふあっ、あっ、あ……!」 「リイリア、リイリア……! こうなることを、ずっと夢見ていた……!」  激しい抽送のために泡だった体液が、結合部からこぼれ落ちる。直後、リイリアの目の奥に、白い閃光が走った。  ゾクゾクと全身が震え、鳥肌が立つ。白い光は頭の中で大きく膨らみ、リイリアの視界を全て塞いだ。  体が痺れて動けないのに、男を受け止めている器だけは痙攣を繰り返す。 「あっ、あああっ!」 「くっ……!」  上り詰める途中で、埋め込まれたままの肉棒が跳ねた。カイネもまた達したのだ。  膣内に精液を撒き散らされている――。そう思うと、あまりにいやらしくて、リイリアはどうにかなってしまいそうだった。 「ひ、ああん……。カイネぇ……」 「リイリア……」  二人は抱き合う。男性としてはまだ小柄なカイネの、だが抱き締めてくれる腕は十分力強かった。  やがて名残惜しくも結合を解くと、カイネはリイリアの胸元を飾るペンダントをそっと握った。 「時代遅れのデザインで悪いが、お守りだと思って、もうしばらくつけているのだぞ……」  返事をしたのかも定かではなく、疲労と緊張が限界を越えたリイリアは、意識を失ってしまった。  朝の日差しに頬を撫でられて、リイリアは目を覚ました。  のろのろと体を起こし、室内を見回すが、誰もいない。カイネは帰ってしまったようだ。  あれは夢だったのか。ふと疑うも、体はだるいし、秘部は痛むし、なによりシーツは男女の体液で汚れているしと、証拠は揃っている。  夢魔に魔法をかけられたのでなければ、リイリアがカイネと契りを結んだのは、間違いないようだ。  ――今日、お嫁にいくのになあ。  結婚相手であるアリアッシュ伯爵に申し訳ないかとも思ったが、しかし向こうはつい数年前まで妻帯者で、子息令嬢が何人もいるという話だ。自分だけが清らかな体でいなければならないということもないだろう。  ――いい思い出ができたと、思うべきかな……。  ただただ働くばかりで、恋などしたこともなかったリイリアにとっては、夢のような一夜だった。  そのように気持ちに整理をつけた途端、辺りが騒がしくなる。玄関のドアがドタンバタンと乱暴に開け閉めされる音がしたと思えば、複数の足音がこちらへ近づいてくる。  何事だろう。伯爵家からの迎えが、もう着いたのだろうか。  とりあえずリイリアは、ソファの上に出しておいた外出着に、急いで袖を通した。  丁度着替え終わったそのとき、ノックもなく、ドアが開かれる。 「リイリア! お前という娘は……!」  まず現れたのは、両親だった。父も継母もカンカンに怒っている。  昨晩のカイネとの情事が、バレたのだろうか。  どう言い訳しようか迷っていると、両親を押しのけ、一人の女が部屋に入ってきた。 「ああっ! わたくしの大事な主が、このような下賎の娘と……! まったく忌々しい! 悪夢ですわ! ちょっと若くて、可愛いからって、なによ!」  一方的にまくし立てるこの背の高い女性を、リイリアは知っている。  名は、ガーラ。カイネのお目つけ役である。  ガーラはつかつかと無遠慮に近寄ってくると、リイリアの首に下がっていたペンダントの鎖を、ぐっと引っ張った。 「間違いない! これは王家の宝物のひとつです!」  それからガーラは、リイリアに人差し指を突きつけた。 「この泥棒猫め! 神妙に縛につきなさい!」 「えっ、えええええええ!?」  ガーラの命令を合図に、部屋の外で控えていたらしい兵士たちがぞろぞろ詰め寄ってきて、リイリアの周りを取り囲んだ。  ――なにがなんだか分からない。リイリアは目を白黒させることしかできなかった。 「さあ、さっさと運んじゃって! なんなら途中で、うっかり殺しちゃってもいいから!」 「ガーラ様ぁ……。――さ、お嬢さん、こちらへどうぞ。怖いことはなにもありませんからね」  兵士たちはガーラのあまりに雑な指示に失笑を漏らしつつ、罪人に対する態度とは思えぬほど丁重に、リイリアを連行し始めた。 「な、なにこれ!? ど、どういうことなんですか!?」  助けを求めるかのように、リイリアは後ろを振り返った。見れば両親が、ガーラにヘコヘコ媚びへつらっている。 「あの子は、うちとは関係ありません! そう! あれは前妻が不義を働き、できた子! きっとそうです! 私に全然似てませんし! 前から我が子にしては反抗的で、おかしいと思ってたんですよ!」 「ええ、ええ、そうですよ、きっと! だからどうか、お咎めはあの子一人に……! 当家には差し障りがないよう、どうかお口添えを……!」 「……………………」  リイリアは前へ向き直った。  どこに連れて行かれるのかは分からないが、この家に留まるよりはマシだろうと悟ったのだ。
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