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 ランプを消し、二人で横たわる。オンボロな寝台はますます狭く感じられて、明らかに傷んでいる底がギシギシと不穏な音を立てた。不用意に刺激を与えると、二人で床に落ちてしまいそうだ。  もっともこれはベッドがあまりに粗末だから、とばかりは言えないだろう。どちらかといえば、同衾するカイネがすっかり大きくなってしまったせいだ。シングルサイズでは抱えきれないのだ。 「おやすみなさい」 「おやすみなさい、お姉ちゃん。あの……抱っこしてくれる?」 「ふふ。赤ちゃんみたいよ?」 「うん……。僕、今日だけは赤ちゃんなんだ」  いつもは聞き分けの良いカイネが、すっかり駄々っ子になっている。だが、可愛いわがままを言うその声色はおずおずと遠慮がちで、かえってリイリアの胸をきゅっと締めつけた。  どうしてこの少年は、こうも母性本能をくすぐってくるのだろうか。 「しょうがないなあ。おいで」 「お姉ちゃん、いい匂い……」 「くすぐったい! もう、大きな赤ちゃんなんだから!」    カイネのほうにごろんと横向きになって腕を広げれば、途端、抱きついてきて、スリスリと胸元へ頬ずりをする。そんな少年への愛情が、リイリアを満たした。  ――母親というのは、きっとこんな気持ちなのね……。  我が子が一心に慕ってくれるこの幸福感は、なににも代えがたいものだろう。  自分も早く赤ちゃんを産みたい。そして亡き母のような、強い女性になりたいものだ。  明るく希望に満ちた未来を思い描いた次の瞬間、しかしなぜかリイリアの口からは悩ましげな吐息が漏れた。 「あん……っ!?」  カイネの手が、胸の膨らみに触れたのだ。しかもそれは、偶発的なアクシデントではない。カイネは確信を持って、リイリアの豊かな乳房を掴み、そして力を抜き、妙に慣れた手つきでやわやわと揉みしだいている。 「ちょ、カイネ!?」 「柔らかい……。僕のお母さん、僕を産んですぐ死んじゃったから……。僕はおっぱいをさわったことがないんだ」 「……………………」  さわったことがない。本当だろうか。カイネの一連の動作は、とてもそうとは思えないほど巧みであるが。  しかしカイネの生い立ちが不憫であることは事実である。 「そうだったわね……。可哀想なカイネ……」  同情が、その目を眩ませる。  自分の胸をたぷたぷもみもみと執拗に揉み続ける少年を、リイリアはあろうことか更に強く抱き締めた。 「優しいお姉ちゃんのこと、僕、大好きだよ……」  なすがままになったリイリアの、やがて乳房の頂きが勃ち上がると、カイネはそれをワンピースの布地の上からキュッと摘んだ。 「あっ……!」  なぜか下腹部がムズムズして、リイリアは太ももをそっと擦り合わせた。  ――なんだろう、この感じ。  きっと、良くないものなのではないか。  性的な経験が皆無のリイリアには、今自分の体に触手を伸ばさんとしている感覚の、正体が分からない。  だが、不道徳なものであることは察しがついた。  これはひどく危険で、淫らなものに違いない。  ――カイネと抱き合っているだけなのに、こんな風になるなんて、私はおかしいの……?  自分がひどく汚れているように思えて、リイリアは自己嫌悪に苛まれた。その間も、カイネの手は止まらない。 「あっ……! カイネ、ダメ……! もう、やめて」 「どうしたの、お姉ちゃん。苦しそうだよ?」 「……………………」  もちろんなにがどうなっているのか答えられるわけはなく、リイリアは口を噤んだ。 「ねえ、お姉ちゃん。おっぱい見せて?」  カイネは、服の上からも分かるほど膨らんだ、リイリアの両の乳首をぐりぐりと捻り上げながら、唐突に言った。 「えっ、えええ!?」  素っ頓狂な声で聞き返し、リイリアは自分の胸に顔を埋めている少年を見下ろした。 「ほら、僕のお母さん、僕が小さい頃に死んじゃったから……。僕、女の人のおっぱい、見たことがないんだ。どうしても見てみたくて……。お願いだよ、お姉ちゃん」 「……………………」  黒曜石のような美しい瞳を潤ませて、カイネはリイリアを見詰めている。  心から信頼している、慕っている――。そんな顔をされたら、無碍にはできない。 「す、少しだけだよ……?」  体を起こすと、リイリアは木綿でできた粗末なワンピースの前を開いた。  就寝前のこともあって、下着はつけていない。前ボタンをひとつひとつ外していくと、形の良い胸が徐々にあらわになっていく。 「うわあ~! おっぱいだー!」  カイネは満面の笑顔で、重力に負けず盛り上がったリイリアの美しい乳房に、手を伸ばした。 「ま、待って……!」 「でも、僕のお母さん、僕が小さい頃に死んじゃったから……」  ――またそれか。 「僕のお母さん、僕が小さい頃に死んじゃったから」。もはやそのフレーズは、カイネのあらゆる行動における枕詞と化している。と同時に、リイリアの良心を揺さぶり、抵抗を封じる呪文でもあった。 「生乳(ナマチチ)……じゃなくて、僕、おっぱいにさわったことなくて……。さっきも言ったけど、ずっとずっとさわってみたかったんだ」 「……もうっ。ちょっとだけだよ……?」  今回もまたリイリアは身を投げ出し、少年の無邪気な陵辱に堪えた。 「ああ、すごい。柔らかいんだね。すべすべしてる!」  ベッドの上で向かい合って座りながら、カイネはやりたい放題だ。たっぷりと重量感のある胸の肉を、ぐにぐにとこねるように揉む。思う存分柔らかい感触を楽しんでから、下から持ち上げ、薄紅色の先端にちゅうっと吸いついた。 「か、カイネ!?」 「僕も赤ちゃんのとき、本当だったらこんな風に、お母さんからお乳を貰うはずだったんだね……」 「ぅ、あ……ん……」  悲しげなつぶやきを聞けば、無理に引き離すわけにもいかず、リイリアはこの大きな赤ん坊に、出るはずのない母乳を与え続けた。  しかし。  赤ん坊は、乳輪に沿って、チロチロと舌を這わせたりするだろうか?  赤ん坊は胸を吸いながら、もう片方の乳首を指でいじったりするだろうか?  赤ん坊は乳首を甘噛みし、ちらりと上目遣いに相手の反応を確かめ、そのあと優しく舐めたりするだろうか? 「あっ、ああ……っ」  白い肌を赤く染め、リイリアは身を捩っている。  カイネの振る舞いは、幼子(おさなご)が母を慕う仕草とは明確に異なっている。しかしリイリアには、そのようなことに気づく余裕はなかった。  ――カイネはただ甘えているだけなのに、どうして私の体はこんなにいやらしく、昂ぶってしまうんだろう……?  ずっと年下の少年に与えられる妖しい快感に、リイリアはすっかり踊らされてしまっている。 「お姉ちゃん、お股、どうかした?」  堪え切れず、もじもじと足を擦り合わせているのを見つかって、リイリアは返答に困った。 「な、なんでもないの……」 「そう? でもなんだか息も荒いし、汗もかいてるし」 「へ、平気だから……!」 「――そう」  必死に取り繕うリイリアを一瞥し、カイネは微笑んだ。 「大丈夫なら、もうひとつ頼んでいいかな? ――おまんこ見せて」 「えっ……」  なにを言われたのか、分からなかった。  おまんこ。  頭の中で十回ほど、その卑猥かつマヌケな響きの単語を繰り返して、リイリアはようやくカイネの要求を理解した。 「そっ、そんな下品なことを言ったら、いけません!」 「ごめん……。でも、だったらなんて言ったらいいの? 女の人のあそこのこと」 「え、それは、えーと……」  リイリアはまたも答えに窮した。 「おまんこ」に代わる呼び名。もっと品のある、できれば可愛らしい言い方はないだろうか……。  いや、違う。そもそも女性の性器を見せてくれなんて、そんなことを頼むこと自体、おかしいのだ。  案の定というべきか、リイリアが余計な問題に頭を悩ませている間に、カイネの手はまんまと彼女のワンピースの裾に伸び、捲り上げると、股間を覆う下着の両端を掴んでしまった。 「ちょ、カイネ! やめなさい!」 「でもお姉ちゃん、僕、お母さんが小さい頃、死んじゃってぇ……」 「それはもういい!」  さすがのリイリアもキレる。しかしカイネは動じず、冷静に話題を次のネタにシフトさせた。 「僕、姉妹(きょうだい)もいないし……。だから、女の人の体がどうなっているか、分からなくて。普通は家族が詳しく教えてくれるものなんでしょう?」 「えっ……」  初耳だ。世の中の家族とは、そういうものなのだろうか。  腹違いの弟だったら何人かいるが、彼らから隔離されるようにして育ったリイリアには、その辺の事情が分からない。  自分の弟たちも、女体の神秘について、継母や妹たちから教わっているのだろうか。それはなんだか、ひどくおぞましい気がするが……。 「だから僕には、お姉ちゃんが教えて?」 「そ、そんなの無理よ!」  リイリアはカイネの手を必死に払おうとするが、到底制止には及ばず、ずるずると下着を下ろされてしまった。それほど彼の力は、強くなっていたのだ。 「カイネ……! いやっ!」  リイリアは初めてカイネに恐怖を感じ、そしてようやく自分の置かれている状況を正しく把握したのだった。  ――私は、なにか勘違いしていたのではないだろうか。
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