姫と黒い鏡

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 翌朝姫は、一晩置いたショールを頭からかぶり、バルコニーに出てみた。  鏡の魔法はとても優秀で、光が焼き尽くす感覚はない。  姫は久しぶりに国土を見下ろした。  美しかったはずの国は、なぜか色褪せて見えた。  木々はあるのに緑は豊かではない。  花々は咲き乱れているのに彩がない。  獣よ、何をそんなに荒ぶるのか。  バルコニーをいつも見上げる誰かがいたような気がしたが、姫は世界が恐ろしいほど退屈なものに見え、それどころではなかった。 「鏡よ、大変だわ! 国が色を失ってしまったの。お父様とお母様が命を賭して守った世界が、表情を持つことを忘れてしまったの!」 「なんと恐ろしい。姫よ、共に国に喜びを戻しましょう。さあ私の前に立って。姫の力を少しだけ私にもお貸しください。これはなかなか大変な作業ですよ」  姫は鏡の前に立つ。鏡の前の姫は無表情だったが、姫が見る鏡の中の自分は今日も変わらず美しく微笑んでいた。 「これでどう? 私あなたの力になれている?」 「ええ、十分でございます。あなたの微笑みで増強された魔力を国中に流しましょう。これには私も時間がかかります。姫の笑顔が光り輝いて見えた時、国は元の美しさを取り戻すでしょう」 「まあ、大変なのね。でも私も頑張るわ。鏡よ鏡、私の傍にいてくれてありがとう」 「お役にたてて光栄です」
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