3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
翌朝姫は、一晩置いたショールを頭からかぶり、バルコニーに出てみた。
鏡の魔法はとても優秀で、光が焼き尽くす感覚はない。
姫は久しぶりに国土を見下ろした。
美しかったはずの国は、なぜか色褪せて見えた。
木々はあるのに緑は豊かではない。
花々は咲き乱れているのに彩がない。
獣よ、何をそんなに荒ぶるのか。
バルコニーをいつも見上げる誰かがいたような気がしたが、姫は世界が恐ろしいほど退屈なものに見え、それどころではなかった。
「鏡よ、大変だわ! 国が色を失ってしまったの。お父様とお母様が命を賭して守った世界が、表情を持つことを忘れてしまったの!」
「なんと恐ろしい。姫よ、共に国に喜びを戻しましょう。さあ私の前に立って。姫の力を少しだけ私にもお貸しください。これはなかなか大変な作業ですよ」
姫は鏡の前に立つ。鏡の前の姫は無表情だったが、姫が見る鏡の中の自分は今日も変わらず美しく微笑んでいた。
「これでどう? 私あなたの力になれている?」
「ええ、十分でございます。あなたの微笑みで増強された魔力を国中に流しましょう。これには私も時間がかかります。姫の笑顔が光り輝いて見えた時、国は元の美しさを取り戻すでしょう」
「まあ、大変なのね。でも私も頑張るわ。鏡よ鏡、私の傍にいてくれてありがとう」
「お役にたてて光栄です」
最初のコメントを投稿しよう!