姫と黒い鏡

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 そうしてまた、満月が三回過ぎた。  姫はバルコニーから幸福な国土を眺めていた。  その顔に張り付いた笑みは、なんの感情も読み取れない無機質なものだった。  喜びは知っている。楽しみも知っている。  でも怒りも悲しみも忘れてしまった。そんなものは姫の中には残らない。  あの真っ黒な鏡が全て吸い取ってくれて、この国土と同じように、ただただ幸せな感情の中にまどろんでいる。  姫は黒い感情の全てを鏡に映すうち、櫛が落ちた、ドレスにほころびがあった、庭の花が一つ枯れていた、いつもより少し暑かった……どんな些細な負の感情でも、全てを鏡に訴えなければ不安で不安で仕方ない、非常に不安定な精神になってしまった。  鏡に依存し、常に鏡の前にいる。  そうすれば姫の心は平穏で、怖いことなど一つもなかった。  その代わり、彼女の天の祝福のごとき笑みは、人形のようにその形を描いているだけの無意味なものになっていた。 「ああ姫よ。あなたの心はどうなってしまったのか。あの全てを愛と幸せで包み込む光のようなあなたの笑みは消えてしまった。なんと、なんと私は愚かだったのか。喜怒哀楽の欠けた人間に、本当の笑みを浮かべることなど出来なかったのだ」  ガルドラは真っ黒な鏡を叩き割った。  そうすれば姫もいつしか元の豊かな心の持ち主に戻り、真の笑みを浮かべてくれるだろう。
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