シャドー

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 漫画に感化され、ボクシングジムに入門した。  といっても、さすがにプロを目指すとかはなく、憧れの世界を体験する練習生としてだ。  目的がプロ志望ではないから、トレーニングはたいしてハードではなく、割と自由にやりたいことをさせてくれる。  今日は、鏡の前でシャドーボクシングに打ち込んだ。  習ってきたことを思い出しながら、ジャブを打ったりストレートを繰り出してみる。それを鏡に映す俺の後ろに誰かの影が映り込んだ。  後ろに誰かいるのか? だとしたら、ぶつからないようもっと離れないと。  そう思い、振り返ったのだが、そこには誰の姿もなかった。  気のせいかと思い、またシャドーボクシングを始める。すると、また鏡に映る俺の背後に人影がちらついた。  今度はあえてシャドーを続けたまま、さりげなく後ろを窺ってみる。けれどそこにはやはり誰もいない。  間違いない。鏡にだけ何かが映っている。しかもその人影らしきものが現れる頻度が増している。  顔こそ見えないが、今ははっきりと鏡に映っている何ものか。俺に合わせてシャドーボクシングをしているが、その動きが次第にこちらへの攻撃になってきた。  耳元をかすめる拳の音。ステップを踏む足音。  俺に挑んでくる見えない何か。それから逃れようとシャドーを止めようとしたけれど、体は止まらず、鏡の前から離れることもできない。  練習生なりにスパーリングはしたことがあるけれど、今日は、プロのリングにでも上がっているつもりで、命がけでコイツを倒すしか、逃れる術はなさそうだ。 シャドー…完
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