姫と黒い鏡・ビター

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 姫の部屋からは魂を引き裂かれそうな悲鳴が聞こえる。  城中の鏡を漁り、あの黒い鏡を探す。  覗き込んだ鏡には、憔悴の表情の姫の背後に映る、無表情の男がいた。  姫が恐怖に凍り付く。  あの黒い鏡を寄越したのも、壊したのも、この男だったと気づかない。  国で一番の魔法使いだったガルドラは、姫が笑顔を失うと同時に狂気に走った。  この愛する姫の顔を持った女は、自分の愛したファグルディスではない。  役に立たない黒い鏡と同じく、そんなものはいらない。  恐怖で動けない姫の細い首に、ガルドラの両手が絡みついた。    かつてそこには、神々の寵愛を受けた豊かで美しい国があったと言う。  スヴァルトヘルムと言うその国は、そこに住んでいた美しき姫が笑顔を失うと、一緒に光を失ってしまった。    淀んだ水に沈むのは、かつて神々の楽園へ一番近かった浮島。  森はいくつものツタに絡まれ、悲鳴を上げているようだった。  転がる獣の骨は、かつてそこに生き物がいたことを辛うじて知らせたが、そんな荒廃した土地でどうやって生きていたのだろうか。  ところで、この王国の名残を伝える瓦礫の中には、いつ誰が作ったのか、黒い心を映し出す真っ黒な鏡があるそうだ。  それはヒビだらけの醜い鏡で、映ったものの黒い感情を喰らい、自己の修復に励んでいると言う。  興味本位で覗いたら、どうなるのだろうか。  じっと鏡を見つめる、壊れた笑顔の女の霊に聞いたら、もしかしたら分かるかもしれない。
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