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姫と黒い鏡・ビター
まだ人々が自然と調和し神霊や魔法の力と共に暮らしていた、そんな太古の時代のお話。
神々の楽園まで続いていそうな浮島からは清らかな水が絶えず大地に降り注ぎ、豊な緑と花々は永年の春のような風に吹かれ、獣が地を踏み鳴らす足音が命の力強さを教えてくれる。
悠久の平和と幸福に包まれているようなその国の名はスヴァルトヘルム。
ここには一人の美しいファグルディスと言う姫君がいた。
彼女こそ光明、愛も富も幸も彼女から生み出される――そう錯覚してしまいそうなほど、湛えられた笑みはある男の心を強烈に惹きつけた。
国で知らぬものはいない、類まれなる魔法の才能を持った男の名はガルドラ。
ガルドラは胸に姫への恋心を秘めつつも、あまりの姫の眩しさに近づくことが出来ず、遠からず近からずそっと彼女を見守るだけで十分だった。
心豊かな姫の全てが愛おしいが、力の強い彼は姫を穢してしまいそうな気がして、彼女の危機を彼女の知らない内に消し去るのが精いっぱいだった。
それで彼女が微笑んでいてくれるのなら、それだけで幸せだった。
姫が笑い、魔法使いが密かに幸福を得る。
ガルドラの助けに、姫は気づかないまま守られる。
そんな毎日がただ穏やかに過ぎていくだけのはずだった。
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