恩返しの機会

1/3
前へ
/33ページ
次へ

恩返しの機会

「僕達はエージェントに転向するまで、ロスと同じクラーク博士の研究チームにいたんだけど、その頃のあいつはまだ超能力を使えなかった。とはいっても十年以上も前のことだし、あいつが今どんな能力を扱えるかは全然わからないけど……」 「能力がわからないのに『危険な奴』ってどういうことだ?」  すかさず矛盾を指摘してきた賢人に、イリヤは神妙な面持ちで応じる。 「クラーク博士が引退した後も、あいつはチームの責任者として、Type:Iの脳と超能力の関係について研究を続けてきたはず。STIの中で誰よりも超能力に詳しいから、今のあいつはどんな能力を扱えたとしても不思議じゃない……ニールが警戒すべきかどうかは、僕にはわからないけどね」 「他に危険要素は?」 「警戒の必要はない」と示すように、賢人はさらりと言った。  呆気にとられるイリヤに代わり、ショウが冷静に応じる。 「父から聞いた話では、ロスは復活実験の直後からリグラトと連んでいたらしい。父が引退する前までの話だから、最近もそうだとは限らないが……リグラトの能力は同じ能力をもつType:Iでも相殺できないから、一緒にいる可能性がある以上、ロスも危険視せざるを得ない」   ショウの言葉に頷きつつも、イリヤはどこか腑に落ちない様子で呟く。 「ロスの頭を吹っ飛ばしたのはリグラトだよね? なのに連んでるって……ロスがリグラトを手懐けたってこと?」 「さぁな。頭がイカれてる奴同士、馬が合ったんじゃないか?」 「リグラト」が話題にのぼるたびに反応に困っていた雄士は、ふと肩を叩かれ隣を見た。  賢人は「大丈夫」というように微かに笑ってみせると、イリヤの方を向いて飄々と言う。 「それで? 策はあるのかカトゥリスキー」 「……その呼び方やめてくれる? 可愛くないよニール」 「俺もその呼び方は気に食わない。俺の名前は新秤賢人だ」 「ああそっか、『賢人』ね……了解」 「ところで策はあるのか? カトゥリスキー」 「……おい」  真剣に二人の会話を聞いていた雄士とショウは、同時に吹き出した。  雄士の胸の中の憂いも、この場の重い雰囲気も一瞬にして吹き飛ばした賢人の一言に、実はこの中で最もコミュニケーションスキルが高いのは彼だったのだと気づかされ、雄士はあまりの意外さに愕然とする。  一方自分よりもはるかに歳下の青年に弄ばれてしまったイリヤは、心に落ち着きがなかったことをようやく自覚し、先程までよりも冷静な態度で切り出した。 「実はこの中に一人だけ、第二研究所のセキュリティを無条件でパスできそうな人がいるんだけど……」  イリヤが遠慮がちに視線を向けると、賢人はふい、とそっぽを向いた。  事情がいまいち掴めず、雄士は慎重な態度で尋ねる。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加