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「なぜ賢人がセキュリティを無条件でパスできそうなんですか?」
「ほら……彼はリグラトと瓜二つだろ? 僕達も見間違えたくらいだしさ。STI本部のセキュリティって内臓までスキャンされるんだけど、その作業はシステムじゃなくて、透視が使えるType:I……つまり生身の人間がやってるから、リグラトは毎回完全にスルーされてたんだよね。俗に言う顔パスってやつ」
実際にリグラトを見たことがない雄士にはなんとも判断し難かったが、ショウは名案だと感じた様子で、珍しく前向きな態度で話し出す。
「確かにリグラトを透視する度胸のある奴がいるとは思えないな。奴の気分次第では理由もなく殺されかねないし、皆近づきたくないのが本音だろう。リグラトに化けようなんて命知らずがいるとは誰も思わないだろうし、見た目さえ本人なら中身を疑う奴はいない。第二研究所のセキュリティがどんなに厳重でも、難なく突破できるかもな」
「だろ? だからニ……賢人がリグラトを装って潜入して、僕達を招き入れるっていうのはどうかな?」
「絶対に嫌だ」
「ああ、そりゃ嫌だよね……あんな奴になりすますなんて」
「やめろイーリャ。奴は……」
「……ああ、ごめん」
「俺の発言も配慮に欠けていた……悪かった賢人」
リグラトが仮にも賢人の父親であることをようやく思い出した様子で、イリヤとショウは申し訳なさそうに俯いた。
雄士も先程からその点が気になっていたのだが、当の本人はまったく気にしている風ではなかったため、過剰に反応するのは避けてきたのだ。
「配慮なんて必要ないし、時間の無駄だからやめろ。俺に親はいない」
賢人は無表情で淡々と言い切った。
胸に微かな痛みを感じながらも、雄士は賢人の意思を汲み、時間を惜しんで話を進める。
「仮に賢人が潜入できたとして、俺達を招き入れる方法なんてあるんですか? 当然そこでは超能力を使えないですよね?」
「うん……超能力はね」
イリヤは言葉に含みをもたせ、反応を窺うようにじっと賢人を見据えて続けた。
「君が僕達をリャンの自宅からここに瞬間移動させたあの力ってなに? 複数の人間を転移させられる能力なんて聞いたことないんだけど」
イリヤの指摘にどきりとしつつ、雄士は平静を装ってさりげなく賢人に視線をやる。
賢人の方もさすがのポーカーフェイスで、眉ひとつ動かさずに応じた。
「あれは雄士さんのためだけの移動手段だ。二度と他の奴には使わない」
「いや、そういうことじゃなくて……本当に超能力なのかなって」
「逆に聞くが、お前が言う『超能力』ってなんなんだ?」
「うん……まぁそうだね。こんな抽象的な話をしてもしょうがないか……」
詮索を諦めた様子のイリヤを見て、雄士は内心ほっとした。
賢人に明かすつもりがない以上、今の時点で彼の正体や能力について追及されるのは都合が悪い。
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