血の導き

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血の導き

 ジャオと羊歯を加え、総勢六名のエクシーダーが会議室に集まると、雄士は今回の作戦の目的と全員のプロフィールを簡単に説明した。  その最中ずっとそわそわしていたイリヤに、話を終えた雄士は早速声をかける。 「どうかしたか? カトゥリスキー」 「……イリヤでいいよ。キーラはまだ来ないの?」 「ああ、彼は来ない。今回の作戦には参加しないからな」 「え……?」  イリヤの動揺は想定内だった雄士は、微笑みを崩さずに全員の顔を見渡しながら言った。 「今回の作戦は俺の独断専行だ。司令に一報は入れるが協力は得られない。承知しておいてくれ」  雄士の部下達が次々と頷くのを見て、イリヤは遠慮がちに口を開く。 「あのさ指揮官……もしかして彼らは、この作戦に強制参加させられる感じ?」 「当然だ。そもそも異論のある奴はいない」  イリヤは信じられないという顔でジャオと羊歯の反応を窺おうとしたが、片や目が合うなり「あ?」とガンをつけてくるわ、片や顔すら見えないわで、早々に諦めるしかなかった。 「万が一の事態が起きた場合のために、ジャオと羊歯には本部で待機してもらう」 「ちぇっ、また待機かよ……」  むすっとした顔でぼやくジャオの肩を叩き、雄士は「この作戦の目的は何だ?」と真剣な表情で問いかける。 「『翔太』を助けることだろ?」 「そうだ。この作戦において、翔太君の安全を確保するお前の役目こそが最も重要だ。失敗は許されないが、任されてくれるか?」 「っしゃあ‼︎ オレに任せろ‼︎」 「羊歯も頼んだぞ」 「はい指揮官さん!」 「知らねぇ奴が来るからってテンパんなよ? アザネ」 「ひっ、人助けなんだしっ……ちゃんとがんばる!」 「よし」と笑顔で頷きジャオの頭とウサギ頭を撫でた雄士は、賢人が不満を露わにする前に、彼の頭も忘れずに撫でてやる。 「作戦の具体的な流れを決めよう。お前の動き次第だから、まずはいくつかのパターンを提案してくれ、賢人」 「イリヤとショウを翔太の元に飛ばし、確保が完了次第こちらに戻して作戦終了です」 「……え?」  ぽかんと口を開けたイリヤに、賢人は当然だと言わんばかりに淡々と告げる。 「たかが一人を連れ出すのに、ぞろぞろ大人数で行く必要はない」 「いや、そこじゃなくて……そんな簡単にいくの?」 「超能力じゃないって分かってるなら、そんなに驚くことでもないだろ」 「まぁそうだけど……」  賢人があっさりネタばらしをしたことにも、実はイリヤにとっくにバレていたことにも驚いた雄士は、思わず呆気にとられながら呟く。 「俺の役目は……?」 「雄士さんは俺を見守っていて下さい」 「お前……最初からそのつもりだったのか?」 「今さらご褒美なしはナシですよ」 「……」 (完全にはめられたな……さすが悪魔)  ついさっき、「今回ばかりは」などといかにも難易度が高い作戦であるかのように言っていた賢人を思い出し、雄士はぴくぴくと口角を引きつらせる。  涼しい顔で雄士を見返しながら、賢人は恭しい態度で言った。 「作戦開始のご命令を、指揮官殿」 「その前に、二人にも説明してやれ」  驚きを通り越して固まっているジャオと羊歯を憐れに思いながらも、雄士は気を取り直し、素直な賞賛をこめて賢人に微笑みかける。  理由はともあれ、仲間を助けるために惜しまず能力を発揮しようとしている彼が、心底誇らしかった。
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