血の導き

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◆  賢人が提案した作戦は誰の耳にも簡単そうに聞こえたが、すぐさま実行に移せるわけではなかった。  彼の能力がいかに優れ、いかに世の理から外れていようと、すべての能力には必ず制約が存在するからだ。  賢人と共に退室して話し合い、今回の作戦に必要な情報を整理した雄士は、皆が静かに待つ会議机の前に戻ると、作戦開始に向けての最終確認を始めた。 「Type:Iが扱う瞬間移動の能力は定員が一名と決まっていて、ポータルを開ける場所は能力者が行ったことのある場所に限られる。お前の場合定員に限りはないが、後者の条件はほとんど同じ……そうだな?」 「はい。俺は第二研究所には行ったことがないから、内部に直通するポータルは開けない。だからイリヤとショウの血を通して『翔太』の居場所を特定し、そこに直接ポータルを開く」  この説明で納得させられるのか? と半信半疑で一人ひとりの反応を窺っていた雄士は、何故かきらきらと瞳を輝かせているイリヤに気がつき、思わず首を傾げた。 「血の繋がりをたどる……か。なんてロマンチックな能力だろう! でも一体どういう仕組み? 君には血の声が聞こえるとか? いやまさか……『繋がり』自体が目に見えたりするのか⁉︎」  研究者というものは、皆こんな風に少ない情報から想像を膨らませて独りでに感嘆に至り、さらに勝手に考察まで始めてしまう生き物なのだろうか……?  非常に既視感のあるイリヤの反応に内心苦笑いを浮かべながら、雄士は冷静に話を戻す。 「賢人が単独で行う一部の作戦行動に関しては、他の者が把握しておく必要はないから詳細の説明は省く。異論はあるか?」 「なるほど……好奇心はものすごく疼くけど、今は我慢するよ」  興奮のあまりか小刻みに震えるイリヤの背中をそっと撫でながら、ショウもこくりと頷く。  雄士がほっとしたのも束の間、賢人は二人に向かってとんでもない一言を放った。 「わかったらさっさと自傷しろ」  雄士がやれやれと額に手をあてる一方、イリヤとショウは緊張気味に立ち上がり、そろそろと賢人の方に歩み寄る。 「血の量はどれくらい必要?」 「腕を一本ずつ切り落とせば丁度いい」 「え……?」  一瞬にして青ざめたイリヤを見て鼻で笑った賢人は、すかさず雄士に脇腹をつねられ「うっ」と小さく呻く。 「……冗談だ。じっとしてろ」  ほっと息をついたイリヤは、無意識のうちにショウの手を握りながらぎゅっと目を瞑る。  彼の手をしっかりと握り返したショウは、一つ深呼吸をしてから「頼む」と賢人を促した。  しんと静まった室内が緊張感に包まれるなか、賢人は二人の左肩付近──心臓に近い場所に、左右の手をそれぞれ近づけていく。  次の瞬間、皆がはっと息を飲んだ。信じられないことに、真っ直ぐに伸びた賢人の指先は、なんの抵抗もなく二人の体にすっと入り込んでしまったのだ。  衣服も皮膚もすり抜けていったかのように音もなければ、血の一滴も流れず、二人共声ひとつあげない。  実際痛みはないようで、一部始終をその目でしっかりと見ていたショウは勿論、途中から恐るおそる目を開けたイリヤも、驚愕のあまりすっかり固まっている。  今にも驚嘆の声をあげそうだったジャオの口を慌てて塞ぎながら、雄士はじっと目蓋を閉じて集中している賢人を見守る。  やがて小さく息を吐き出した彼は、薄っすらと目蓋を開けて静かに言った。
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