「大人」と「子供」

2/2
前へ
/33ページ
次へ
「それにしてもこの人数……あっちは大丈夫なの?」 「問題ない。優秀な新人を向かわせたからな」  自信満々に言った雄士を見て、イリヤは目を丸くする。  彼が「残って手伝う」という翔太の申し出を断ったのは、誰がどう見ても安全確保のためだったはずだ。 「あれって『足手まとい』って意味じゃなかったの……?」 「なんでそうなる? 切実に人員が必要だったところに、ちょうど俺を『指揮官』と呼ぶ男が現れたんだぞ? 今日の俺は最高に幸運だ」 「男って……翔太はまだ子供だよ?」 「そうか? 一瞬しか会えなかったけど、彼は男の顔をしていたぞ。それに自ら人の助けになろうとする奴は、もう子供じゃない。子供は助けられる側だからな」  翔太の働きに存分に期待している様子で朗々と語った雄士を、イリヤは半ば呆気にとられながら見つめる。  確かに翔太は、現場に残る意思を自ら口にしていた。両親である自分達に、許可を求めることさえなく……。 「そんな……たった二年会わないうちに大人になっちゃったなんてショックだよ……」 「落ち込むな。親の手を離れて頑張ってきた分、これからいっぱい甘やかしてやればいい。それとなカトゥリスキー、俺の少数精鋭部隊の頭数に入っている以上、今のところ名ばかりのベテラン隊員にもさっさと大人になってもらわないと困るんだが?」 「うっ……了解」  ぐうの音も出ないという顔で俯いたイリヤは、すぐに表情を引き締めると、残る子供達に誠実な態度で声をかけはじめた。  その様子を横目で眺めながら、この慌ただしい現場で唯一暇そうな男が、悠々とした足取りで指揮官に近づいていく。 「まるで避難訓練ですね」 「馬鹿言ってないで、さっさと檻を調べてこい」 「了解です指揮官殿」 「……いや待て。お前……もしかしてポータル以外にもエネルギーを使ってるか?」 「よくわかりましたね」 「……はぁ。そういうのは先に言えよ。こんなにいきなり腹が減ったら気が滅入るだろ……」  恨めしげにぼやく雄士に涼しい笑みを返し、賢人は色を正す。 「これ以上あなたが空腹にならないように、さっさと済ませましょう」 「ああ。あとは檻の中の子供達だけだ」  檻の外にいた子供達の誘導を終えたイリヤ、そして何やら他の作戦を実行中らしい賢人を引き連れて雄士が近づいていくと、檻を調べていたショウが神妙な面持ちで振り返った。 「これはただの檻じゃない」 「タダじゃなければいくらだ? さっさと壊せ」 「値段は知らないけど、俺の力では壊せなかった」  真顔で答えてきたショウをなんともいえない表情で見返しながら、賢人は呆れた様子で言う。 「お前達はSTIで一番のエージェントだと聞いてたのに、拍子抜けもいいところだな」 「……キーラがそんなことを?」 「他がゴミなだけだろ。それにSTIにはとっくに俺がいない」  自信満々に言った賢人の肩を叩き、雄士は「絶好調だな」と素直に賞賛する。  賢人は微かに左の口角を上げ、心なしかいつもより明るい声で「ご褒美が楽しみです」と呟いた。  その様子に薄っすら寒気を感じながらも、雄士は珍しくやる気に満ちている彼の働きを黙って見守ることにする。 「そこから出たいか?」  賢人は落ち着いた声で檻の中の子供達に尋ねた。  見知らぬ大人達以外は誰もいなくなった檻の外にちらちらと視線をやるだけで、子供達は誰も応えない。  彼らの表情から、不本意ながら「リグラトと瓜二つ」だという自分の外見に対して怯えているわけではないと判断した賢人は、檻の目前まで近づくと、その場にしゃがみ込んだ。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加