奇想天外な男

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奇想天外な男

「どちらにせよ、お前達はそこから出て檻の外にいた子供達と合流することになる。何か問題あるか?」  賢人が淡々と告げると、子供達は一斉にぱっと顔を上げた。  怯え一色だった彼らの瞳に微かな期待の色が見えはじめ、雄士はほっと息をつく。 「……翔太もいる?」 「うん」 「じゃあ平気……だよな?」  賢人の質問に答えた一人の少年が周囲に意見を求めると、ちらほらと頷く者がいた。他の子供達は、見知らぬ大人と関わることにまだ戸惑いがあるようだ。  雄士は賢人の隣にしゃがみ込むと、穏やかな微笑みを浮かべて言った。 「翔太だけじゃなくて、向こうには頼れる大人もいる。それにこのお兄さんは君達が知ってる誰よりも強いし、こっちの二人は翔太の両親で、困難な任務をいくつも乗り越えてきた経験豊富なエージェントだ。もう大丈夫だから、何も心配するな」  まるで天の助けを得たかのように顔を輝かせ、一心不乱に雄士の話に聞き入る子供達を眺めながら、賢人は自然と口元を緩めていた。  檻の中にいる全員の顔に「外に出たい」という意思が表れたのを確かめ、彼はすっくと立ち上がる。 「全員下がれ」  子供達が賢人の指示に従った直後、彼らと雄士達を隔てている無数の鉄格子が、まるで蜃気楼のようにゆらりと揺らいだ。かと思えば、その一本一本が幻影のように透けて見えはじめる。  真っ白な壁を背に取り残された子供達は、見慣れた鉄格子が突如として得体の知れない状態になり、呆然と立ち尽くしている。  賢人が鉄格子を薙ぎ払うような動きで水平に手を振ってみせると、子供達は目をまん丸くしてさらに硬直した。  それが面白かったのか、賢人は半透明の鉄格子の上を一直線に歩いて往復し、子供達の視線が右へ左へと自分にぴったりついてくる様子を愉しげに眺めはじめる。  鉄格子が幻影になったのか、それとも物体をすり抜けているこの男が、実は幻なのか? だんだんとわからなくなり混乱しはじめた子供達を見かね、雄士は集合の合図を出した。  すると子供達は、我先にと目の前の檻をすり抜けて雄士に駆け寄り、さらに押し合いへし合いで彼の後ろに隠れようとする。  雄士はやれやれと苦笑を浮かべ、背中にひっついてくる子供達を振り返った。 「おいおい怖がるな。確かに不思議な力だけど、お前達はこうして外に出られただろ。なんて言うんだ?」 「あっ……ありがとうございます……」  一人の少年に続き、他の子供達も続々と賢人に向かって礼を述べる。  ふっと鼻で笑い、「可愛くない」という顔をした賢人の肩をそっと叩き、雄士は色を正した。
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