消えた二人

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「あなたの言うことも一理あります。説明不足ですみませんでした」 「ああ、わかればいい」 「だけど……俺が人を助けたいなんて勝手に思われては困ります。俺はただ、あなたがしたいことを理解しようと努めているだけなので。それにご褒美をもらえなくなるとわかってて、俺が二人を諦めると本気で思ってたんですか? 心なんて読めなくても、あなたはもっと俺のことを理解してくれてると思ってました」 「そうだな……イリヤのことでつい熱くなって、お前が俺よりずっと賢くて執念深いってことを忘れてた。ごめんな。……でももう俺を止めるな。お前をあれほど侮辱した奴を生かしてはおけない」 「俺は他人に何を言われても平気です。だけど……あなたに敵意を向けられたら、冷静ではいられません」  クラウドの壁が解けた瞬間の賢人の表情を思い出し、雄士は胸が締めつけられる思いがした。  やはりあの時、精神の乱れによって彼のクラウドは消失したのだ。悪意に満ちたロスの言葉よりも、感情に任せた自分の発言が、より深く彼を傷つけていたのだ……。 「……ごめん」  雄士は自分の頬を軽く殴り、賢人に向かって深く頭を下げた。  賢人は微かに眉尻を下げ、どこか切羽詰まった様子で訴える。 「謝ってる暇があったら、さっさと俺に全てを委ねて下さい。あなたの力を100%引き出せるのは俺だけです」 「ああ、わかってる。ちゃんとわかってるから……その今にも泣きそうな顔をやめろ」 「そんな顔してません」 「そうか。自覚がないなら演技ではないな」 「……」  微かに耳を赤くして雄士に掴まれた腕をじっと見下ろしていた賢人は、ふと何かに気づいた様子で顔を上げた。 「さすがですね、雄士さん」 「いきなり何だ? 皮肉なら今は受け付けないぞ」 「まさか。俺だって時と場所を選びますよ」  賢人の左の口角をじっと見据えながら、雄士は思いきり眉をひそめる。 「何か考えがあるなら口に出せ、はっきりとな」 「そうですね……また怒られるのは嫌なので、今回は共有しましょう」  賢人は涼しい顔で言い、雄士の左目に手をかざした。  意図を察した雄士が同じように彼の左目に手をかざすと、頭の中に声が響く。 『ロスの後ろを見て下さい』  賢人と同時に手を下ろし、床に座り込んだままのロスの背後に目をやった雄士は、思わず叫びそうになるのを堪え、頭の中で応えた。 『二人はどこに行った⁉︎ ロスがどこかに飛ばしたのか⁉︎』 『ロスではないし、俺でもありません』 『はっきり言え! 二人はどうなった⁉︎』  向き合ってじっと見つめ合う二人を怪訝そうに眺めながら、ロスはゆっくりと立ち上がった。  賢人はとくに気にする様子もなく、落ち着いた「声」で続ける。
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