消えた二人

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『俺はこの部屋ごとクラウドの壁で覆うことで、外側からのあらゆる干渉を無効化していました。だからあの人もここに入って来られなかった……あなたが偶然にも、俺の精神を乱すまでは』  わざわざ声に出さずに話している意味がないのでは? と思うほど遠回しな言い方ではあったが、雄士には彼が言わんとしていることが理解できた。  賢人はこの部屋に着いてすぐ、他の者の侵入を防ぐための防壁を展開した。それこそが彼が単独で実行していた「他の作戦」であり、雄士が空腹を感じた原因だったのだ。  そして完璧なその防壁は、望みが薄く作戦には組み込めなかったある人物の協力までも阻んでいたというわけだ。 『二人は助かるのか……?』 『わかりません。でも自ら介入したからには、あの人は最善を尽くすでしょう。そのために俺達を……いや、あなたを二人に関わらせたんでしょうから』 『……わかった。今はあの人を信じよう』  雄士は賢人に向かって小さく頷き、改めてロスの背後の血溜まりに目をやった。  その視線をたどり、後ろに横たわっていたはずのイリヤとショウの姿が忽然と消えたことに気づいたロスは、嘲るような笑みで雄士達を見据える。 「今さら逃したって無駄だよぉ? もう二人とも死んでるし」 「そうだな。お前は何も気にせず、自分の心配だけしておけばいい」  侵入者達に長らく無視されていたロスは、ようやく返ってきた初めての返事に嬉々として応じる。 「随分と自信があるようだけど、ここが誰のホームか知らないわけじゃないよねぇ? ていうか頭おかしいんじゃないキミ達? 人前でいきなり喧嘩するわ、じっと見つめ合ってイチャつくわさぁ……あー気持ち悪い。恥知らずにもほどがある」  雄士はふっと笑い、「意外とまともなことを言うんだな?」とロスを見据える。 「だけど人前でもないのに、俺達が行動を慎む必要はないだろ? それともお前は犬や猫の目も気にするタイプなのか?」 「……ボクは人じゃないっていうの?」 「少なくとも俺は、人前で堂々と裸でいる人を見たことはない」  雄士が真剣な表情で言い切ると、賢人は小さく吹き出した。  悔しげに歯噛みしながらも、ロスが攻撃を仕掛けてくる気配はない。  雄士達が好き勝手に振る舞っている間も一切手出ししてこなかったことからも、彼が賢人に通用する能力をもっていないことは既に明白だ。
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