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狂ったように笑い出すことも、賢人を罵りはじめることもなく、ロスは紙のように真っ白な顔でどこか一点を見つめている。
追い討ちをかけるように、賢人はロスにも聞こえる声量で雄士に耳打ちした。
「気持ち悪い奴ですね……あれで自分がまともな人間だと思ってたなんて」
「ああ……憐れな奴だ」
イリヤは自分があんな風になることを予知していながら、自分の子だけでなく見知らぬ子供達をも助けるために、この場に踏みとどまった──その事実をしっかりと胸に刻み、雄士は力の根源たる「怒り」を冷静に育みはじめた。
今はそうすることが必要なのだと、賢人から伝わってくる微かな高揚感が教えてくれる。
いよいよ「狩り」が始まるのだ。
「Type:Iであるロスが、俺に直接触れられる可能性は万に一つもない。つまり俺がロスをぶん殴るのに障害は一つもないってことだ。よくも邪魔してくれたな賢人?」
「あなたが一人で勝手に終わらせようとするからでしょ。初めての狩りなのに、見ているだけなんて御免です」
「へぇ? だからさっきからやたらと怒りを煽ってくるわけか」
「当然でしょう。あなたの最高潮のバーストを、俺がコントロールする……それでこそ最高の初体験です」
よほど上機嫌なのか、賢人はこれまでに見せたことのない妖艶な笑みを浮かべた。
不意をつかれた雄士はどきりとしたが、「ふん」と鼻を鳴らして誤魔化し、ロスに目をやる。
先程からやけに静かだと思えば、ロスはいつの間にか部屋の扉にかじりつくようにして、必死でロックを解除しようとしていた。
雄士は穏やかな微笑みを浮かべ、怯える獲物をいたぶるようにわざとゆっくりロスに歩み寄る。
「どうした? 鍵を失くしたのか?」
「なっ、なんで開かないんだよぉ⁉︎」
「さぁな。『マスター』にわからないことが俺にわかると思うか?」
当然賢人の仕業だと分かっていたが、雄士は涼しい顔ではぐらかしてロスの背後に立つ。
もはやこれまでと悟ったのか、ロスは振り向きざまに狂ったように喚きはじめた。
「アッハハハハハ! キミさぁ、そいつがなんだかわかってんの⁉︎ 異物だよ⁉︎ 人じゃないんだよ⁉︎ よく一緒にいられるよねぇ⁉︎ だいたい誰がつけたのぉ? 『存在しない』なんて名前。ぴったりすぎて笑……ギャアアアアッ⁉︎」
不意にドスリと腹部を貫かれ、ロスは痛みを感じるよりも先に驚愕して悲鳴をあげた。
右手でロスの腹部を穿ったまま左手で前髪を掴み上げた雄士は、何も言わずに真正面から彼を見据える。
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