【第四部】「キーラ」

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 雄士と同じ考えに至ったようで、賢人は「悪趣味な」と呆れた様子で吐き捨てた。 「時と場合によっては、お前もやりかねないんじゃないか?」──そんな本音を飲み込み、雄士は「そうだな」と彼に同意する。 「どうやらその可能性は高いようですが、念のため第三者の関与にも留意しつつ話を進めましょう」 「了解!」  キーラの存在がよほど頼もしいのだろう、イリヤはさっきまでとは打って変わって意気揚々と応じると、改めて雄士達に情報提供をはじめた。 「まず、今回の任務にあたってこの国に入国したSTIエージェントは、僕達二人だけだ。クライアントはご存知の通りリーエン政府で、彼らの目的は優れた技術を持つ元自国民を取り戻すこと。回りくどいけど、一番確実な方法でね」 「SNSでの煽動もSTIの仕業ですか?」 「うん。ニッショウ国民にリーエン移民に対する反感を植えつけるための工作だ。STI本部の技術者達が動いてるはずだけど、尻尾は掴めないと思った方がいい」 「ええ、そのようです」  SNS炎上への対策に羊歯(しだ)が全力を尽くしてくれたことを再確認し、雄士は改めてイリヤの話に集中する。 「僕達が本部から受けている司令は、ニッショウ国民とリーエン移民の対立を激化させ、最終的には移民達自ら帰国を望むようにさせることだ。そのために僕達は、リャンの他にも移民の労働者を抱える人達と接触してきた」 「強盗事件はまだしばらく続くということですか?」 「いいや……そのはずだったけど、キーラは僕達がリャンに接触したことを既に嗅ぎつけていたわけだし、絶対に阻止するための手を打ってる」  キーラの有能さを信じてやまない様子で断言したイリヤを白い目で眺めながら、賢人は冷ややかに言った。 「そんなに優秀なら、SNSの炎上も防げたはずだろ」 「そこなんだよ……誰よりも優秀なのに、なぜか機械音痴なんだよね、キーラ」 「……そんなエージェントいるのか?」  あり得ないとばかりに眉をひそめた賢人に、雄士も「ジャオくらいだろうな」と心の中で呟きながら深く同意する。 「確かに信じ難いよね。でも実際、そっち方面の仕事を毎回丸投げされてた僕が言うんだから間違いないよ。多分テクノロジー全般に興味がないんだろうね……専門用語とかも全然覚えてくれないから、報告するのも一苦労だったよ」  イリヤの話に思い当たるふしがあったのか、賢人はふとため息のように「ああ」とこぼした。 「そういうことか……自分でやるのが面倒臭いか、俺を顎で使いたいだけかと思ってた」 「まさか。キーラはそんなだらしない人でも、悪い人でもないよ。僕がキーラの代わりに仕事をこなした後はいつも食事に連れて行ってくれたし、いっぱい褒めてくれたしね」 「……」 「……」 「……」  無邪気な笑みで得意げに話したイリヤをじっと見つめたまま、他の三人は沈黙した。 「完全に手駒にされてたんだな……」と、揃って全く同じ感想を抱きながら。
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