旧友たち

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旧友たち

「ここは……?」 「スピネラが眠っていた例の墓室さ」  雄士の問いにさらりと応え、キーラは石の扉に手をかける。  そこに刻まれた見慣れぬ文字は解読できなかったが、以前聞かされた話を思い出した雄士は、背筋に悪寒が走るのを感じながら言った。 「この中に入るんですか?」 「安心したまえ。この中にはもう何もない。だからこそ彼らを隠しておくにはぴったりだったんだ。……とはいってもここはレビアント島。敵地のど真ん中であることに変わりはないけどね」  キーラが最後まで言い終えないうちに、雄士は石の扉を壊すような勢いで押し開け、墓室の中に飛び込んだ。  数段高い位置に据えられた石の棺の前に横たわる二つの人影を見つけると、無我夢中で駆け寄っていく。 「イリヤ! ショウ!」  二人の傍らに跪いた雄士は、ふと乱暴に扱ってはいけないと気がつき、伸ばしかけた手を慌てて引っ込める。  隣にしゃがみ込んできた賢人の腕をぎゅっと掴みながら、雄士が思わず息を飲んだその時、「うう……」と微かな呻き声がした。 「……超痛い……死ぬかも……」  真っ青な顔に無理やり笑みを浮かべたイリヤを見下ろしながら、雄士は言葉もなく、ただ掴んだ賢人の腕を強く揺さぶる。  賢人はほっとした様子で息をつき、「落ち着いて」と非常に握力の強い雄士の手を上からそっと握った。  イリヤの下腹部に空いた穴は、そこから大の男が出てきたことを考えると随分小さく、再生が進んでいるのがはっきりと見てとれる。  喜びを抑えきれず、雄士はイリヤの隣に横たわるショウを叩き起こしてパートナーの無事を知らせようとしたが、すかさずキーラに止められた。 「彼の精神的ダメージは大きすぎた。カトゥリスキーくんが完全に回復してからの方がいい」  雄士は目に涙を浮かべて頷き、「しっかりしろ」とイリヤの手を握る。  賢人は何かが腑に落ちない様子で、石の棺に腰掛けたキーラをじっと見据えて尋ねた。 「一体どうやって彼らを助けたんですか?」 「もちろん時間を止めたのさ」  飄々と応えたキーラに、賢人はなおも疑いの眼差しを向ける。 「そんなことは誰にもできません」 「相変わらず頭が固いねきみは。クラウドの中は亜空間で、時間は流れていないだろ? それに確かに死んではいたが、カトゥリスキーくんはシンビアントだ。片割れと同時に死んだのでない限り、共生器官が完全に消滅するまでにはタイムラグがある。共生契約の代償で、ショウが息を引き取るまでのわずかな時間ではあるけどね。シンビアントの共生器官は……」 「二つで一つ。だから必ず同時に消滅する、でしょ? 俺のクラウドエリアが解けた瞬間から、彼らはあなたのクラウドで覆われていたということですね」 「『彼ら』だって? きみは馬鹿か? ショウの死を阻止することさえできれば、カトゥリスキーくんの肉体は勝手に再生する。それなのにカトゥリスキーくんの時間まで止めてしまっては意味がないだろう?『ショウが息を引き取る直前にクラウドで覆った』が正解だ。とにかく間に合ってよかった」  議論のさなか、賢人を堂々と「馬鹿」呼ばわりしたキーラに驚かされながら、雄士は先程からどうしても気になっていたことを尋ねる。 「ところでロスはどこに消えたんですか?」 「僕のクラウドに閉じ込めてある」 「……なんのために?」  警戒心を露わにした雄士がさらに尋ねると、キーラは困ったような笑みを浮かべて弁明をはじめた。
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