夢見る俺たちのオメガバース

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 なにかがおかしい。  気づいたのは、目が覚めてすぐだった。  俺は、朝がものすごく苦手だ。  だから三つ目の目覚まし時計が鳴るまでねばるのも、目蓋がどうしようもなく重いのも、5ターン寝返りするくらいまで布団から出られないのも、いつものこと。  でも、今日はそれだけじゃなかった。 「あれ……?」  起き上がれない。 「んっ……」  お腹に力を入れようとしても、 「んんっ……」  腕を突っ張ろうとしても、 「あっ……!」  全然上手くできない。  それどころか、歯を食いしばったせいで頭がクラクラしてきた。  景色が回る。  気持ち悪い。  それに、  熱い。 「理人(まさと)?」  ノックの音がしたと思ったら、すぐに扉が開いた。  現れたのは、ばっちりメイクで出勤準備万端の母さんの顔。  その横で、壁の時計が7時半を指している。  父さんはもうとっくに出勤してる時間だ。  おはようも、行ってらっしゃいも、今日は言えなかった。  いつもならそのことを怒るのに、ベッドの上に横になったままの俺を見て、母さんはただ顔をしかめただけだった。   「どうしたの? いい加減に起きないと遅刻しちゃうわよ」 「母さん……っ」  絞り出せたのは、たったそれだけ。  でも、それだけで十分だった。  母さんは、早足にベッドに近づいてくると、ぎゅうっと眉毛を寄せた。 「やっぱり……右目の二重がいつもより深くなってる」  それは、小さい頃からずっと変わらない、体調が悪いときに出る俺のくせ。  2歳の時に初めて気づいたのも、大きくなってから気づいてくれるのも、いつも母さんだ。 「風邪かしら。熱、測ってみましょ」    勉強机の引き出しをガサガサしたあと、母さんは体温計を差し出した。  脇の下に挟んでしばらく待つと、ピピっと音がする。  点滅していた数字は、37.6。  思ったよりは低かったけど、平熱よりずっと高い。 「今日は家でゆっくり休んでなさい。学校には連絡しておくから」  俺は、すぐに頷けなかった。  学校を休んだら、最低でも、今日1日の間は佐藤先輩に会えなくなってしまう。  寂しい。  でも、無理して登校して先輩に風邪が移ってしまったら……そっちの方がずっと嫌だ。 「うん……わかった」 「じゃあ、とりあえず病院に……」 「やだ、行かない!」 「もう……」 「母さんは、仕事行ってよ」 「……」 「今日は大事な会議があるって言ってただろ」  自分が〝筋金入りの病院嫌い〟だってことは自覚しるけど、母さんに迷惑をかけたくない気持ちだって本物だ。  母さんはしばらく俺をじっと見下ろしてから、ほうっと息を吐いた。 「一時間ごとに熱を測って、38度を超えたら必ず連絡すること。わかった?」 「ん、わかった」 「絶対よ? 約束破ったら、太い注射打ってもらうからね!」 「わ、わかったって言っただろ!」
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