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男ーーハイセンは大股で部屋に入ると、手際良く俺をベッドから起こして、髪を梳き、着替えさせる。
その間、俺は何もしなくていい。ただ窓の外の鳥に笑ったり、ハイセンが俺の肌に異常がないかを確認しているのを眺めたりするだけだ。
そして彼に手を引かれて食卓につく。ハイセンは俺に赤ん坊がするよだれかけのような大きな付け襟をつける。そしてほかほかの食事を一口すくって、にっこりと笑いかける。
「はい、坊ちゃん、今日はほうれん草と白魚のキッシュですよ。ほうら、あーんしてください」
「うー」
「おいしいですね」
彼は満面の笑みだ。つられて俺が笑うと、さらに彼は感極まったようになって涙まで流し出す。
「ぎょうも、ぼっぢゃんが尊いい……!」
そう、問題とは、このハイセンという男が、俺のことを猫可愛がりして醜態をさらしまくっているせいで、いまさら正気に戻ったと言い出しにくいことである。
ハイセンはもともと俺のお目付役だった。きちんと折り目のついたシャツと、一部の隙もなく結ばれたネクタイが特徴的な黒髪メガネの男だ。
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