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私の推しは、名を黒子という。
これが正式名称ではないのだが、その一切の正体が不詳の為、この界隈ではそう呼称されている。
その所以は、彼女が『giver-1』の元メンバーであった歌霖の代理としてダンスのみのパフォーマンスをしている、謂わば黒子役のような存在だからであろう。
私が黒子を―――『giver-1』を見つけたのは今から約1年前、テレビのとある音楽番組での事だった。
毎日特にやる事もなく、暇だからとリビングで垂れ流されているテレビをぼーっと眺めていた時、私の視界に5人組の女性アイドルグループが映し出された。
『……ねぇ美子、何であの人お面被ってるの? このグループのメンバーじゃないの?』
瞳に捕らえたのは―――狐のお面の様なものを被った少女の姿。元々アイドルに特段興味があったわけではなかった私だが、直ぐ様近くにいた妹へ疑問をぶつけた。
『あー……黒子ちゃんだよ』『くろこ……黒子?』なぁにそれ、と頭にはてなを浮かべる私へ、妹は説明を補足した。
『本当はもう1人ね、歌霖ちゃんって子がメンバーにいたんだけど、活動休止しちゃってさ。でも" ギバ "の楽曲は奇数用にダンスの振り付けがされてるわけ。だから5人の時の曲踊るときは代理で黒子ちゃんを入れてるの』
『その歌霖ちゃんって人は何で活動休止したの?』
『えー知らん!! 別にあたしは" ギバ "のガチファンじゃないもん。まぁでも、病気?体調不良?的な事誰か言ってた気ぃするー』
『ふぅん……』一応、大凡のあらまし理解はできたのだが、いまいち何かが腑に落ちない。
『なにー、華子姉ファンになったの?』アイドルオタクな妹の、訝しげな問いに空返事をしながら、私は画面を食い入るように凝視した。
―――『giver-1』、の黒子ちゃん……かぁ……。代理でここまでできるんだ。けど……すごく楽しそう。
一般家庭用サイズの小さなテレビ画面の奥で、他のメンバーに負けず劣らずのダンスで輝きを放つ彼女に魅了され、暫くの間、心を奪われた。
そこから沼に嵌まるまではもう一直線。素性の全く分からない、アイドルかダンサーかすらも定かではない彼女を追うには『giver-1』のライブを観る他ないだろう。
当然グッズなど販売はないし、ダンスのみ故に声を聞くことも叶わない。それでも彼女にどうしようもなく惹かれてしまった私は、幾度となく抽選に外れた末、今回漸く初対面への切符を手に入れた。
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