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推し is 黒子
カチ、パアァ―――ッ
暗がりにひとつ、白い明かりが点る―――。
それに連なるようまたひとつ、またひとつ、続々とカラフルな照明やペンライトが輝きだす。
収容量が1万人は優に超えるであろう大きなホールの中、鼓膜に穴が開いてしまいそうな程の歓声が弾けた。季節が急速に巡り巡って夏が再来したかの如く、一旦は静まっていた会場が再び熱気に包まれた。
あまりの眩さに頭がクラクラする。私、山城華子は周りの気迫に負けないよう、手に持った小さなペンライトを握り直した。
いつもより緩く編み込んだツインテールが、自分の動きに合わせて小刻みに揺れる。オーバーサイズのTシャツにジーパンといった極めてラフな格好をした私はきっと、この場から浮いていることだろう。
何故なら、周囲にいる女の子たちは皆お洒落で可愛くて―――沢山の応援グッズを身に付けているから。
対する私は、100円ショップで購入した極一般的なペンライトのみ。唯一誇れるアイテムとして、愛らしい狐の形をした髪留めを付けているが、勿論これも非公式品である。
『今日はわたしたち" giver-1 "のライブに来てくれて本当にありがとう! 改めまして、リーダーのAkariです』
身体中を流れ続けていた音楽が鳴り止み、正面の舞台上で明るい声が上がった。私たちのような、どちらかといえば騒音に近い歓声とは違い、はっきりと澄み切った声がマイクを通して高らかに響く。
そして Akari に続く形でメンバーが次々と挨拶をしていく。その各々の名乗りに伴って、会場が再び熱を取り戻し、瞬く間にパフォーマンス中のソレとはまた味の異なる空気感が立ち上がった。
―――『giver-1』3周年直前カウントダウンライブ
そんな名目で開催されたこのライブに、私は只今参戦中であるのだ。今回が初めてで、ライブのいろはも知らぬまま此処へ来た私は、人の波と叫声の嵐で揉みくちゃにされる。
だが当然のことながら、今、私も自分の目の前に推しが生で存在しているのだ。興奮しないわけがない。
数分間のMCが終わると、また音楽が鳴り出す。私は懸命に、1人の少女の姿を視線で追いかけた。先程、唯一自己紹介をしなかった自分の推しの姿を―――。
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