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010:グリグリ
グリフォンの傷の手当と世話をすること三日。私の携帯している水と食料が尽きてきた。グリフォンはすっかり私に気を許していて大人しい。この三日の間に行方不明になっていた行商人の死体も見つけた。そして彼が持っていた荷物も。これは街に行ったら換金しようと思っている。
「少し待っててね。町で水と食料を買ってくるから」
そう言って私が行こうとすると、グリフォンが寂しそうに鳴いて私の服の袖を噛む。甘えているようだ。
「そんな声で鳴かないでよ。大丈夫だよ。戻って来るから」
そう言ってみても言葉を理解していないグリフォンには分からないだろう。
「うぅん。困ったなぁ」
水も食料も残り少ない。節約しても明日までだろう。水は六日分はあったがグリフォンにも飲ませたので足りなくなってしまったのだ。
しょうがない。明日まで様子を見よう。
私はグリフォンを撫でながら更に一泊、野営をするのだった。
翌早朝。つまりグリフォンに出会って四日目の朝。グリフォンがヨロヨロといった様子で立ち上がった。
「おぉ!」
まだまだ本調子ではないようで、フラフラしてはいるがそれでも立ったのだ。
「大丈夫?」
私が語りかけるとグリフォンは「クワァ」と鳴いて私に頭を擦り付けてくる。うん可愛い。私はグリフォンをひとしきり撫でた後で、ギレッツェの町に戻ることにする。ここからだとギレッツェの町の方が近いからだ。
「大丈夫だといいけど……」
手懐けたとはいえ獣だ。何が起こるか分からない。それでも町には行かないといけないのだ。物資調達のために。
「行こっか」
私はグリフォンを供に歩きだすのだった。
※
※
※
最初に結論を書くと町は大騒ぎになった。町の警備をしている兵士まで動員され警戒態勢に。そして隊長らしき人が私に問いかけてきた。
「だ、大丈夫なんだろうな!」
私はなんて答えたものか困ってしまう。私にも分からないのだ。だから正直に「何もしなければ大丈夫です……多分」と答えた。
このグリフォン。幸いなことに馬は襲ったが、人間には直接的な被害は出していない。いやまぁ経済的な害は出したが人間を直接は襲っていないのだ。
なので特別に町に入る許可が出た。ただし何かあれば私の責任ということで。
グリフォンが人の町を歩く。キョロキョロと辺りに視線を向けて。
好奇心があるのか、それとも目を白黒させているのかまでは分からないが、それでも大人しくしている。町の人々も遠巻きにグリフォンの観察している。
「手綱でも買おうかな」
そういえば以前にグリフォンに乗って戦う騎士の話を聞いたな。
「ねぇ?」
そう言って呼びかけたが、名がないことに困ってしまった。
「名前は何にしよっか?」
そう語りかけるとグリフォン。
「クワ?」
と首を傾げる。段々とコミュニケーションが取れるようになってきたかな?
「名前……名前ねぇ?」
グリフォンだからグリとか?
それでは普通すぎるか。
「グリグリなんてどうかな?」
「クワァ」
どうでもよさそうだ。
「ならグリグリでいっか」
というわけでグリフォンの名前が決まったのだった。我ながら安易なネーミングセンスだなぁと思いつつ。
街の中を歩く。すると山道のグリフォンがテイムされたという話が瞬く間に町に広がったようで、一目見ようと人々が集まってきた。その熱量というか圧迫感というか。緊張感にグリフォンが不満の声を上げた。
「クワァ……」
私はグリフォンの首に腕を回して「駄目だよ」と諌める。ここで何か問題を起こせば私までヤバいのだ。自然と腕に力が入る。
「クゥ」
私の言葉や意図が分かっているのかは不明だが、それでもグリグリは大人しくしている。私は道具屋を目指し、そこで携帯食料や涙石を購入し、そして道中で亡くなった行商人さんが持っていた荷も売りさばいた。
荷の多くが海魚だったが、わずかながらに真珠もあった。海魚のみ売りさばく。大した儲けにはならないが、それでもないよりはマシ。真珠の方はしばらく持っていて、海から遠くの街で売ろうと思っている。きっと儲けもでかいだろう。
そして店員に手綱がないかを尋ねる。
「手綱ですか? それでしたら馬具屋になりますけど」
そう言ってドアの方へ視線を向ける。そこにはグリフォンの姿が。入口の前で大人しくしている姿が見える。
「特注品になりそうですね」
やっぱり?
あんまりお金ないんだよなぁ。
それでも購入したほうが良いだろう。何かあった時にグリグリを止めるためだ。他にも荷物を括り付けたりもしたい。私だって乗せてくれるかもしれない。夢が広がるな。
私はそんな事を考えつつ、道具屋の店員に聞いた馬具屋を目指して再び街を歩くのだった。大勢の人を引き連れて。
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